二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
「お前……何言ったんだ」

 涼は、恥も外聞もなく拓人に聞いた。

「あら、知りたいの?」
「僕に関することなら、僕が聞かないわけにいかないだろう」
「それなら、ある一言を言ってもらわないと困るわね」
「一言?」

 涼は、拓人の言い方に嫌な予感がした。

「そう。人にお願いするときに必要な7文字。話題のドラマでもやってたでしょ?」
「ドラマ……」

 涼は、どちらかといえば2時間ちょっとで話の内容がわかる映画の方が好みだった。
 それこそ、ドラマは子供の頃に数回、眺める程度にしか見ていない。
 そのため、涼に心当たりはまるでなかった。
 拓人が、そのことを知らないはずはない。

「あら、香澄も大好きなドラマなのよ?好みの話が合わないなんて……破局まっしぐらね」
「破局……」
「そもそも、破局どころかくっついてすらいないけどね」
「ドラマのタイトル教えてくれ」
「聞いてた?人の話」

 香澄と破局?そんなふざけた展開、あってはならない。
 そのドラマを見ることで、香澄との仲が深まるならいくらでも時間を作ると、涼は決意した。

「…………何考えてるか、ダダ漏れだけど……今欲しい言葉はそれじゃないのよ」

 拓人はそう言うと、涼の前に仁王立ちで立った。
 涼は、拓人に見下ろされている状態なのが気分悪かったので、すぐさま立ちあがろうとしたが

「そのままでいなさい」

 と拓人に立ち上がることを拒否された。

「どう言うつもりだ」
「何度も言ったでしょう?人にお願いするための7文字を私に言えば、香澄を口説いた方法を教えてあげてもいいって」
「口説くなんて許さない」
「何馬鹿なこと言ってんのよ。あんたのものじゃないんだからね。香澄は」

 まだ、と言わなかったのも拓人の気持ちがありありと出ている。
 あんたなんかのものに、香澄はさせないわよ、という心の声が涼に聞こえてくるようだった。

「その7文字とは何だ」
「……人にものを頼むときの一般的な言葉を思い出しなさいよ。さすがに弁護士仕事でくらいは使うでしょう」
「弁護士仕事で使う……?」

 そう言われて、涼はクライアントとのやりとりをイメージする。
 確かに、クライアント側にしてもらわなくてはいけないこともある。
 そのときに使う言葉は……。

(まさか……)

 1つだけ思い至った。
 仕事であれば、するすると出てくる7文字。
 だが、目の前のこの弟にその言葉を言うのは…………プライドが許さない……はずだった。

「どうしたの?兄貴?」
「っ…………」

 だが。
 ここで涼は思い出す。
 自分を求めてくれたベッドでの香澄の可愛さを。

「リョウさん……」

 もう1度、可愛い声で自分を求めてくれることを、何度も夢を見た。
 あれを永遠に手に入るためなら……。


「………………します…………」
「え?何だっって?よく聞こえないわー」
「お願いします!!」

 涼は、言いたくないセリフを勢いよく早口で、かつ大声で叫ぶように言った。

「…………できるじゃない、あんたも」

 その言葉が正解だと言うことは分かったが、涼にとっては屈辱以外の何者でもなかった。
 それでも香澄が手に入るなら……と、涼は歯を食いしばった。
 
(僕は、ちゃんとやるべきことはやったんだ。教えてくれないと容赦しない)

 涼が拓人を睨みつけながら見上げたときだった。

「どS執事と萌え萌え一つ屋根生活」

 何の呪文だ?と尋ねたくなるほど、意味不明な言葉が拓人から出てきた。

「どえ……え?」
「だから、香澄にはこう言ったのよ。どS執事と萌え萌え一つ屋根生活を過ごせば、次の仕事のネタがたくさん蓄積できるわよ、と」

(…………ちょっとよく分からない…………)

 拓人から出てくる言葉の大半がわからなかったが、「どS執事と萌え萌え一つ屋根生活」というワードが、どういうわけか香澄を口説き落とした言葉であることだけは、どうにか飲み込んだ涼だった。

「というわけで…………今すぐあんた、タキシード買ってきなさい」
「は?」
「だから、香澄のためのどS執事、あんたがなるのよ。今日から」
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