二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
「ほら、言った通りでしょ」
 
 拓人の、さも当然と言いたげな声は、涼を再び苛立たせた。
 分かってたのか、と問い詰めたかったが、2mもしない距離に香澄がいることを考えると、拓人に詰め寄る自分の姿は見せたくないと、涼は考えた。
 
(落ち着け、香澄がいるんだぞ……)

 もはや、香澄の名前を心で連呼しながら心を落ち着かせる、ということが、涼にとって自然な流れにすらなっていた。

 拓人が、涼の肩をぽんっと後から叩きながら、涼の前に出た。
 それから、香澄には聞こえないような声で、涼に囁いた。
「本気で香澄と一つ屋根したいなら、ド●キまで行ってこの画像通りの格好をしていらっしゃい」
「画像……?」
「あんたのスマホに送るから。お金は自分で何とかしてよね。どうせ腐るほど金余らせてるんだから、こういう時にこそ使いなさいよ」

 送られた画像を確認すると、映画で見たことあるような執事スタイルの絵だった。

「おい、これ」
「この画像通りよ。いいわね。でなければ、あそこの座敷童は、絶対にあんたに顔見せないわよ」

 そう言うと、拓人は俺の腕を掴んで、そのまま香澄に近寄って何かを話していた。
 拓人はチラチラとこちらを見ているが、香澄は一向に出てこようとしない。

(仕方がない……)

 納得がいかない涼ではあった。
 だが、このまま正攻法で攻めたところで、香澄を再びこの腕に抱くことはできないのだろうということは、恋ボケ中の涼でもさすがに察した。
 黒タキシードくらいは、これまでの人生でいくらでも着る機会はあった。フォーマルな場に出席することも、少なくなかったから。
 涼はしぶしぶ、自分の車に戻りながら、改めて画像を確認すると、追加でURLが送られていることにも気づいた。
 涼のスーツは常に特注。質の良い生地を使い、腕が良い職人に手がけてもらっているおかげで、抜群の着心地を誇る。そんなスーツばかりを着ていた涼なので、もちろんそれなりに衣服に対する目も肥えてしまっている。
 だから、拓人が送られてきた画像を見て、涼はすぐにそれが安物であることに気づいた。

(どうしてこれを着ることと、香澄が僕を受け入れてくれる事が繋がるんだ)

 考えれば考える程、涼は思考の沼にはまっていった。
 だが、その沼から瞬時に引き上げてくれるのもまた、涼の記憶の中にある香澄の笑顔。

(香澄のためだったら……)

 自分を変えると、決めたではないか。
 拓人が言ったからではない、あくまでも。
 涼は腹をくくり、近くのドン●へとスピード違反ギリギリの速度で車をかっとばした。
 
(画像通り画像通り……)

 涼は、慣れないドン●の店内を歩きながら、必要そうなものをとりあえず全てブラックカードで購入することにした。
 といっても、棚を整理していたエプロン姿の人を捕まえて

「この画像にあるものと同じものが欲しいんだけど」

 と聞いて全部準備をさせた、というのが正解ではあるが。
 執事コスプレの1番大きめのサイズ。
 銀の鎖のようなアクセサリー。 
 白い手袋にレースのハンカチーフ。
 それから……。

「あんた……画像の通りに買えとは言ったけれど、それまで買えとは言ってないんですけど」

 拓人は呆れかえったが、その画像にあったすべてのものを涼は準備した。
 銀のトレイに白い布ナプキン。
 アフタヌーンティーでつかうスタンド。
 それにバラを中心に作られたブーケ。

「まあ……私の言い方も悪かったわね……」

 と、実際画像通りの姿になって見せた涼を見ながら、拓人は頭を抱えた。
 まさか自分の兄がここまでやるとは、という思いと、何故服だけという頭にならなかったのか、という呆れが混じっていた。
 でも、結果から言えば、この選択は香澄との仲を深めるには大きな効果を発揮した。
 画像通りの二次元執事っぽくなった涼を見た香澄は

「24時間、この執事観察してたいです……」

 と、言いながら、ノートとペンを握りしめたままじーっと涼を見つめるようになったから。

(嬉しいけど、たぶん欲しい視線はこれじゃない……)

 涼は複雑な思いは抱いたものの、まずは座敷童香澄を押し入れから自分の前にまで引っ張り出せたことに、こっそりガッツポーズはした。
 ちなみに蛇足ではあるが、その日のドン●のスタッフルームでは、超絶イケメンのコスプレイヤーが現れたのではないかと、休憩室でその界隈の人たちが特に盛り上がり、SNSで情報を待機しようという話にまで発展してしまってはいた。
 
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