二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
2月14日が15日に変わった瞬間。
涼と拓人が、香澄の指示を聞きながら掃除をしたおかげで、どうにか2人分寝るスペースは確保できた。
布団は和室にあった1人分と、香澄が夏に使っているものしか使えるものがないとのこと。
涼としては、何としても香澄の布団で眠りたいところだったが、香澄の方から
「涼さんに寝られるのはさすがに申し訳ないので……」
とあっさり拒否されてしまった。
(一緒に眠ったじゃないか……!拓人ならいいのかよ!)
涼は香澄に目で訴えかけてみたものの
「あの、すみません……」
「え」
「もう少し目を細めてもらっても……あと、怪しいこと考えてるように微笑んでもらっても……」
「は?」
「あと可能であれば、ちょっとこのセリフを言っていただきたく……」
「ええと……?」
自分のことを「執事さん」と呼び、どんどんリクエストを重ねてくる香澄に対して、その日は涼からのアプローチは一切できずに終わった……というのがつい1時間前のこと。
そんな無力感に襲われた結果、涼はダイニングで頭を抱えていた。
「兄貴、シャワーどうぞ」
拓人はすでに、自前のネグリジェに着替え、顔はパックをしたままという状態。
「お前……すごいな……」
「いきなり何よ、気持ち悪い」
「……いや……別に……」
涼にとって、これを口にするのは自分の敗北を認めることに等しかった。
香澄が、どんな時でも自分ではなく拓人を呼ぶことも。
そして拓人があっという間に香澄の家を我が物顔で歩いていることも。
「そんな辛気臭い顔してたら、香澄が望む執事には程遠くなるじゃない。しっかりしなさい」
(そうだ、それがあった……)
寝る直前までは着込んでおけと拓人に言われていたので、涼はまだ服は着替えていなかった。
「この格好は何なんだ」
「あんたをこっち側の人間にチューニングするためのものよ」
「こっち側?」
「二次元。香澄も私もだーいすきな、パラダイスのような世界のことよ」
「縦と横しかない平面のことじゃないのか」
「おだまり!二次元を馬鹿にする者は、私も香澄も容赦しないわよ」
(訳がわからない……)
涼にとっては、この1日……いや……数時間の間に与えられた知識が多過ぎて、ちっとも消化しきれていなかった。
「さっきも言った通り、香澄は三次元で生きることをほぼほぼ捨てて、今二次元のために人生を捧げてくれてる。そのためなら、どんなことをするっていう覚悟でね」
「どんなことでも……」
(それが、あの観察なのか)
恋愛相手としてではなく、観察対象としての眼差しを向けられた涼は、自分と香澄の想いのギャップにひたすら戸惑う数時間を経ていた。
「それに話聞けば……あんたが香澄と寝た状態がシラフだったならともかく、お酒飲ませてたって言うじゃない」
「それは……」
(香澄が欲しいって言うから……)
「シラフの状態と、酔った状態の行動が違うのなんて、当然よね」
言われてみればそうだった。
香澄が次の日の朝逃げたのも、シラフになって現実を取り戻したからと考えれば辻褄が合う。
どうしてこんな簡単なことに、今まで気づかなかったのか。
「しかも今は妊娠中。酔った状態の再現なんかさせられるわけない……わかるわよね」
「ああ……当然だ」
(子供を妊娠しているのだから)
「ということで、シラフの香澄をあんたとセックスできた香澄の状態にするには、相当苦労することになる理由はわかったわよね」
「ああ……」
「逃げるなら今のうちよ」
「それはない」
「ちっ」
拓人は舌打ちしながら、バスタオルを投げて寄越した。
「今日は執事から解放してあげるから、とっととシャワー浴びてきなさい」
そのバスタオルからは、香澄から感じるほのかな甘い香りがした。
柔軟剤なのだろうか。
「拓人」
「何よ」
「お前……もしかして、僕の味方してくれてるのか?」
「…………何でそう思うのよ」
「こんなに、香澄のことを教えてくれるってことは……」
(僕に攻略のヒントをくれてる、ということじゃないか)
「あはは。お生憎様」
「は?」
「あんたみたいな人間は、条件を整えた上で完膚なきまでに叩きのめさないと、諦めてくれないでしょう?」
涼と拓人が、香澄の指示を聞きながら掃除をしたおかげで、どうにか2人分寝るスペースは確保できた。
布団は和室にあった1人分と、香澄が夏に使っているものしか使えるものがないとのこと。
涼としては、何としても香澄の布団で眠りたいところだったが、香澄の方から
「涼さんに寝られるのはさすがに申し訳ないので……」
とあっさり拒否されてしまった。
(一緒に眠ったじゃないか……!拓人ならいいのかよ!)
涼は香澄に目で訴えかけてみたものの
「あの、すみません……」
「え」
「もう少し目を細めてもらっても……あと、怪しいこと考えてるように微笑んでもらっても……」
「は?」
「あと可能であれば、ちょっとこのセリフを言っていただきたく……」
「ええと……?」
自分のことを「執事さん」と呼び、どんどんリクエストを重ねてくる香澄に対して、その日は涼からのアプローチは一切できずに終わった……というのがつい1時間前のこと。
そんな無力感に襲われた結果、涼はダイニングで頭を抱えていた。
「兄貴、シャワーどうぞ」
拓人はすでに、自前のネグリジェに着替え、顔はパックをしたままという状態。
「お前……すごいな……」
「いきなり何よ、気持ち悪い」
「……いや……別に……」
涼にとって、これを口にするのは自分の敗北を認めることに等しかった。
香澄が、どんな時でも自分ではなく拓人を呼ぶことも。
そして拓人があっという間に香澄の家を我が物顔で歩いていることも。
「そんな辛気臭い顔してたら、香澄が望む執事には程遠くなるじゃない。しっかりしなさい」
(そうだ、それがあった……)
寝る直前までは着込んでおけと拓人に言われていたので、涼はまだ服は着替えていなかった。
「この格好は何なんだ」
「あんたをこっち側の人間にチューニングするためのものよ」
「こっち側?」
「二次元。香澄も私もだーいすきな、パラダイスのような世界のことよ」
「縦と横しかない平面のことじゃないのか」
「おだまり!二次元を馬鹿にする者は、私も香澄も容赦しないわよ」
(訳がわからない……)
涼にとっては、この1日……いや……数時間の間に与えられた知識が多過ぎて、ちっとも消化しきれていなかった。
「さっきも言った通り、香澄は三次元で生きることをほぼほぼ捨てて、今二次元のために人生を捧げてくれてる。そのためなら、どんなことをするっていう覚悟でね」
「どんなことでも……」
(それが、あの観察なのか)
恋愛相手としてではなく、観察対象としての眼差しを向けられた涼は、自分と香澄の想いのギャップにひたすら戸惑う数時間を経ていた。
「それに話聞けば……あんたが香澄と寝た状態がシラフだったならともかく、お酒飲ませてたって言うじゃない」
「それは……」
(香澄が欲しいって言うから……)
「シラフの状態と、酔った状態の行動が違うのなんて、当然よね」
言われてみればそうだった。
香澄が次の日の朝逃げたのも、シラフになって現実を取り戻したからと考えれば辻褄が合う。
どうしてこんな簡単なことに、今まで気づかなかったのか。
「しかも今は妊娠中。酔った状態の再現なんかさせられるわけない……わかるわよね」
「ああ……当然だ」
(子供を妊娠しているのだから)
「ということで、シラフの香澄をあんたとセックスできた香澄の状態にするには、相当苦労することになる理由はわかったわよね」
「ああ……」
「逃げるなら今のうちよ」
「それはない」
「ちっ」
拓人は舌打ちしながら、バスタオルを投げて寄越した。
「今日は執事から解放してあげるから、とっととシャワー浴びてきなさい」
そのバスタオルからは、香澄から感じるほのかな甘い香りがした。
柔軟剤なのだろうか。
「拓人」
「何よ」
「お前……もしかして、僕の味方してくれてるのか?」
「…………何でそう思うのよ」
「こんなに、香澄のことを教えてくれるってことは……」
(僕に攻略のヒントをくれてる、ということじゃないか)
「あはは。お生憎様」
「は?」
「あんたみたいな人間は、条件を整えた上で完膚なきまでに叩きのめさないと、諦めてくれないでしょう?」