二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
(どうして……?)

 涼は、ここまで香澄が自分を頼ろうとしてくれないのか、理解ができなかった。
 確かに、涼には人に語るにはあまりにもひどい過去がある。
 香澄との本当の初対面の時も、その片鱗は見せてしまったけれど、それだけ。
 自分なりにではあるが、精一杯優しくしたつもりだった。
 もちろん、足りないというのなら、もっと与えられるように努力する。させてほしい。
 それなのに、目の前にいる、自分の子供を宿してくれた子は、涼にヒントすらくれようとしない。
 そのことに、悲しいと思わないほど、涼はまだ人間の心が無くなってはいなかった。
 でも、それを素直にぶつけられる程、無遠慮でもなかった。涼は、大人としての振る舞いは完璧に身に付けてもいたから。
 だからこそ、涼は今葛藤している。
 香澄の気持ちを考えれば、理由はどうあれ、香澄の望みを叶えてあげる選択をするのが正しいだろう。
 でも、涼の本心は違う。
 助けたい。
 頼られたい。
 そのためなら、どんなことだって出来る……。
 どうしたら、それが香澄に伝わるのか。そして受け入れてもらえるのか。涼は全く検討もついていない。
 ただ、それでも。

「ううっ……」

 香澄は、もう涼がいないものと考えているのだろうか。
 便器に顔を突っ込んで、必死に体の中の異物を吐き出そうとしている。
 
(もう見ていられない)

 涼は、まず香澄の背中を優しく撫でた。

「見ないで……」
「見てないよ」

 香澄の小さなか細い反抗はそれだけ。
 それから5分、そのまま二人は同じことを繰り返す。
 こてん、と香澄が頭から涼の胸にもたれかかった頃には、香澄の顔色はより真っ青になっていた。

「こんな状態の君を放っておけるなんて、よく君は思えたね」

 涼は、出来る限り優しい声色になるように、自分の寂しさを香澄にぶつけてしまった。
 香澄は、微かに瞼を震わせるだけ。でも、涼から逃げようともしない。
 それは、この1週間の中では初めてのことだった。
 涼は香澄を抱き上げ、そのまま寝室まで連れて行こうと考えたが、ふとこんなことを考えた。
 リビングのソファの方が、吐きたい時にすぐ吐けるから、そっちで寝かせよう。
 それから、香澄の体を極力揺らさないように、慎重に抱き起こした時、香澄の目から涙が一筋溢れる。
 それから、本当に小さな声で香澄がこう言った。
 きっと風が吹いていたら、吹き飛んでしまっていただろうくらい、小さな声。

「どうせいなくなるなら、優しくしないでください」
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