二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 もし香澄の体調が何ともなければ、問い詰めたかった。
 どうして、僕がいなくなること前提で話をするのか?
 僕の愛情がどうして信じられないのか?
 こんなにも、僕は君を愛しているのに、何故わかってくれないのか?
 先に消えたのは君じゃないか、と。
 でも、苦しんでいる香澄の前では、涼の心に積ったそんな言葉は露と消えていってしまう。
 その代わり、涼は必死で訴える。

「どうか、僕を頼って。僕は君だけの執事なんだよ」

 拓人に「いざというときには使え」と言われた台詞を言いながら、涼は香澄をソファに寝かせた。
 それから、洗面台から持ってきた新品のタオルを香澄に渡し、涼も地べたに座る。香澄と目線を合わせるために。
 そして、香澄の、汗ばんだ髪を撫でながら、涼は思った。
 この髪も、自分の手で洗ってあげたいし、涙も拭いてあげたい。
 それを、まるで香澄を寝かしつける子守唄のように、涼は優しく語りかける。
 すると、香澄は苦しそうに閉じたまんまるな目をうっすら開けた。

「……申し訳……ないんです」
「え?」
「こんな、化粧もしてない顔で涼先生の側にいるのが」

 香澄が、執事さんではなく涼と、名前で呼んだことに、涼は少しだけ驚いた。でも、正直名前で呼ばれることの方が何倍も嬉しい。

「そんなことを気にしていたの?」

 本当に、そんなことを涼は気にしたことはなかった。
 これまで涼が付き合ってきた女達は、これでもかと分厚く化粧をしていた。でも、その化粧顔を心の底から綺麗な顔
だと思ったことは1度もなかった。
 例え、汗や涙でぐちゃぐちゃになったとしても、香澄の今の表情が綺麗だと思うし、毎日同じ空気を吸うだけもっと好きになる。

(どうしたら、この気持ちを受け取ってもらえるのだろう)

 そう思いながら、涼は香澄の頬に流れる涙を拭ってやると、香澄は虚な目を涼に向けながら言った。

「涼先生には、私の気持ちは分からない」
「え?」
「涼先生は、きっと神様から愛されるべき人。でも私は違うから」
「どういう意味……?」

 涼は尋ねた。
 何が違うというのか。
 自分が神から愛されるべきとはどういうことか。
 また、香澄から自分が理解できない言葉が飛んできて、涼は困惑した。
 でも、香澄はそれきり涼から顔を背け、嗚咽を漏らしていた。

「香澄、こっちを見てよ」

 涼が泣きそうになるのを抑えながら懇願した時だった。

「香澄、美味しい苺をそこの奴隷が買ってきたのよー食べるでしょ?」

 いつの間にいたのだろう。
 そしていつの間に冷蔵庫から取り出していたのだろう。
 拓人がフリフリエプロン姿でにっこりと微笑みながら、ガラスのお皿に盛り付けたイチゴを持って立っていた。

「イチゴ……?」

 涼の質問には答えないのに、拓人には反応する。
 それもまた、涼の心をひどく抉った。
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