二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 今まで涼であればきっとこう思っていたに違いない。

「これ以上進めても意味がない。損切りしよう」

 実際、そうして切ったものはたくさんあった。
 拓人もそれを知っていた。10代の頃はそうして切れた縁の流れ弾が当たり続けたのだから。
 だから拓人は、待っていた。
 涼が、香澄の頑固さに屈するのを。
 プライドがエベレスト級に高い涼に、拒絶され続けることは耐えられない。
 そうなったら最後、涼は

「僕は知らない」

 と、彼自身の記憶から出来事そのものを消去する。
 それが芹沢涼の生き方なのだ。
 それしか、拓人は見てこなかった。
 だから、涼が香澄に対してそうなることに賭けた。あえて一緒の空間にいることを許した。
 香澄の強固なまでの意志の強さは、拓人が1番よく知っていた。
 香澄の望みの根幹までは拓人は知らないけれど、仕事という無意識に人間性を浮き彫りにする行為を共にし続けていれば、香澄が気づいていないことですら、気づくことはたくさんある。

(間違いなく、香澄は兄貴とこれ以上一緒にいたらダメ。兄貴に壊されたら、香澄は2度と笑えなくなる。ヘタしたら……)

 これは拓人にとっての確信。
 拓人は涼の弟ではあるが、香澄の方がずっと大事だと思っていた。女としてというより人間として、クリエイターとして香澄と共に高みを目指せる未来を創ることを、拓人自身の人生の目標にしていた。
 それくらい、拓人は香澄のクリエイターとしての才能に深く惚れている。

(この経験は、香澄の創作の糧にはできる。そうできるよう私が支える。だからもう、搾りカスには退場してもらわなきゃ)

 そう思っていた。
 香澄が拓人だけを頼ることも、目に見えて分かっていたし、涼もいい加減香澄に拒否され続ける毎日にうんざりしていたことだろう。
 たとえそれが、本当は香澄の「好意の裏返し」からきているものだとしても、それに気づくのは自分だけで良いと、拓人は思っていた。
 どうせ涼が気づくはずもないのだから、とも思っていた。
 そろそろリタイアをするだろう。
 1週間目の土日で、全てが決着すると思っていた。
 でも、拓人にとって予想外なことを、涼はした。

「嘘でしょ……」

 あの唯我独尊の芹沢涼が。
 どんなに拒絶されても、どうすれば拒絶されないかを必死に考えて行動している。
 あの、悪魔の男が。

「いいえ、まだまだ……」

 きっと、珍しいだけ。
 面白がってるだけ。
 いつもよりちょっと難しいゲームだとしか、思っていないはず。
 拓人は計算を少し変えた。

「あと2週間……そうね、そこで絶対決着がつくわ」

 涼と香澄の縁という糸が永遠に切れるのはそこ。
 自分はただ、香澄が涼に与える痛みを見守るだけでいい。
 そう、思っていたのに。
 この時の拓人は予測していなかった。
 涼の想いが予想していた以上に本物であったことも。
 そしてその想いが、香澄の命も、お腹の赤ちゃんも救うことになるとは。
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