二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 涼は耳を疑った。

「おい、今お前なんて……」

 自分が聞いた単語が、空耳であって欲しいと、涼は願った。

「言葉通りよ。香澄は、子供を産むことを自分の人生の中では考えられないって言ったんだから」
「それは、いつの話だ?」
「だから言ったでしょ。シークレットベビーの企画を作ろうと、あの子と打ち合わせをしていた時よ。だから…………ちょうど10月くらいかしらね。」

 それは、すでに涼が香澄の事を知っていて、香澄を探すためにありとあらゆるツテを使っていた時期だった。

「それで、企画を作る時、相手の男性の設定や、主役カップルの恋愛シチュエーション展開までは、お互い意見をぶつけ合いながら楽しく構築できていたはずなの。もちろん、その主役カップルが1度別れてしまうシチュエーションもね。合宿の成果もあったからか、提案力はぐんっと上がったもの」

 ちなみに、拓人は決して、涼が香澄を知ったきっかけでもある『デートシチュエーション課題』が理由だろうとは言わなかった。

「でも、問題はその後」
「後?」
「どうしても、愛する人の子供を産んで、自分一人で育てていくと言う内容がピンっとこないって言うのよ」

 涼は、その理由の1つに自分のクライアントでもある香澄の母親があることにピンときた。

「それは、香澄の母親が理由なのか?」

 父親を早くに亡くした香澄。
 本来ならば母親から庇護されるべき年齢だった時に、その母親によって傷をつけられた香澄。
 そんな香澄が、自分の母親に対して嫌悪感を持つのはごく自然のことなのだろうと、弁護のために香澄の母親の情報を知っているからこそ涼は考えた。

「やっぱり、そこが原因なのかしら」
「やっぱり?」
「あの子はこう言うのよ……繰り返し……」

 それから拓人が話した、香澄の主張はこうだった。

 母親が一人で育てられなくなったり、親に置いていかれる苦しみを子供が味わうのは耐えられない。

 だったらそんな世界を見せない方がずっと子供は幸せだったと私は思う。

 私は、親の都合に振り回される子供は何よりの被害者だし、そこからハッピーエンドになることはあり得ないと思う。

 それなら、先にその命を自分が責任ある内に、ちゃんと育ててくれる違う人のところに行けるようにした方が、子供は幸せだと思う。


 涼にはそれの全てが、香澄から、香澄の母親への憎しみのようにすら思えた。
 そしてその中には、香澄の
 
「だったら生まれてなんかきたくなかったのに」

 と言う悲しい本音が隠されているとすら思い、涼は今すぐにでも香澄を抱きしめてやりたくなった。
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