二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 涼と拓人は1つのことを決めた。
 それは何があっても、香澄をこの家に1人にはしないようにすること。
 特に1人での外出は、香澄と今後のことをきちんと話をするまでは控えさせる。
 香澄が病院に行ったのも、拓人と涼の2人が家から離れた、ほんのわずかな時間だった。
 それにも関わらず、1人で動けるか怪しい程つわりで苦しんでいる香澄が、たった1人で病院へと行ってしまったのだ。
 まだちゃんと、会話をした日数が両手でやっと数えられる程の涼ならともかく、お互い知り合ってからほぼずっと一緒に仕事をしていた拓人でさえ、香澄が今何を考えているのか、掴みきれていなかった。
 他人同士、理解し合えないのが普通だと、普段の涼であれば冷めたように考えることもできたはずだ。
 それをうまく折り合いをつけるか、相手を叩き潰すのもまた、涼の、弁護士としての得意技でもある。
 依頼人の弁護をする時は、それなりに頭を使う。
 だが涼は、いつどんな時も、どうすれば依頼人の利益も、自分の利益も手に入れられるのかを、計算高く進めていく。
 だからいつでも負けなし。
 もしくは、あえて裁判で負けても、それすらも糧に自らのブランディングを高める。
 そんな風に、自分に利益がきちんと残るように、仕事でも頭をフル回転させ、かつ成功させ続けていたはずの涼が、だ。香澄に関しては今までのノウハウも何もかもが本当に通用しない。
 その悔しさともどかしさが、さらに涼を苦しめていた。真綿で首を少しずつ苦しめていくように。
 一方、拓人は拓人で、自分が1番の香澄の理解者になれると信じていたし、そうあるべきだと思っていた。
 ところが、いざ蓋を開けてみれば、仕事に関しては確かに頼られるが、あくまで仕事だけ。
 あのクリスマスの時期の恋愛相談でさえ、香澄にとってはあくまで仕事の延長線上。涼とのセックスに関する話でさえも。
 けれど、家族や生き方に関する、本当の意味での香澄の軸部分についてだけは、香澄はあれだけ「先輩」と慕っていた拓人でさえも徹底的にシャットアウトする。
 拓人も、家族や愛については、人と違うという部分でずっと苦しんでいた。
 そんな自分じゃなければできない、香澄への寄り添い方があると思っていたし、香澄にも伝えていたつもりなのに、それでも香澄は拓人にすら心を完全には開かない。その結果の、さっきの言い争いだ。
 いつもであれば、拓人も「それが人間だものね。深いところで分かり合えないのすら、楽しむべき」と楽観視できていただろうが、今回ばかりは話が違う。
 知らないのも、信じられないのも香澄本人だけ。
 涼も拓人も、きっと本人よりずっと香澄に価値を感じている。大切にしたいと思っている。
 本人だけなのだ。小森香澄というたった1人しかいない、彼らにとって宝物のような存在をぞんざいに扱うのは。
 そこまで、拓人と涼は会話のキャッチボールをしながら2人で考えてから、拓人と涼は決めた。
 香澄の本心をちゃんと聞き出すまでは、一時休戦し、協力し合うことを。
 ちなみに、それから早速、香澄が起きたであろう頃に2人で香澄の部屋に入り

「1人で外出も許さないから」

 と拓人が宣言すると、香澄はしばらく考えてから

「わかりました。少しの間だけだと思うので」

 と返事をした。
 その言葉の裏に

「どうせ私はまた1人に戻るんだから」

 という香澄の心の声が聞こえた気がしたと、涼と拓人は同時に思った。
 その言葉の裏に「父親の本当の死因」があったことを先に知ったのは、涼の方だった。
 きっかけが、香澄によって開かずの間にされていた和室の隣の部屋に入ってしまったこと。
 すでにその頃、香澄の妊娠は4ヶ月目に入ろうとしていたが、まだ母子手帳も貰いには行けていなかった。
 香澄が、市役所に行くことを拒絶したから。
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