二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 それを聞いた香澄の母親は、急に高笑いし始めた。
 そして、香澄を指差しながらこう言った。

「あの人が死んだのは、そこにいるぐずのせいで本棚に潰されたって、グズが思い出したわけ?」
「……え?」

 香澄にとっては、全く心当たりがない話だった。
 突然死と聞かされていたから。
 でも「どうしてお父さんが死んだの?」と、何度か祖母に尋ねると、いつも同じことしか言われなかった。
 どんな背景があったにせよ、自分のせいだと言われてようやく、父が死んでから祖母が死ぬまでに言われ続けた言葉が、香澄の腑に落ちた。

「香澄が思い出したわけではないですよ」

 涼はそう言いながら、スマホを見せた。
 動画が、流れ始めた。
 映っていたのは、香澄ですらほとんど入ることがほとんどない、父親の部屋。
 涼や拓人、そして知らない男の人が数人、倒れていた本棚を起こし、散らばったままの本や置物を出してはしまい、を繰り返していた。

「これは違うみたい」
「じゃあこれじゃない?」

 そんな会話をしながら、様々な組み合わせを試していた。

「な、何よこれは……」

 香澄も全く同じ疑問を抱いたが、香澄の母親の声は、明らかに震えていた。
 それだけで、この動画の行為が、香澄の母親にとって都合が悪いことであることなのだろうと、察することはできた。

「あ」
「これか」

 動画の中で空気が変わった。
 本棚はびっしりと本で詰まっていた。
 それこそ、ぎちぎちに。
 抜こうとすると、多少の本棚の揺れは発生する。
 大きな子供向けの絵本は、とても子供には手が届かない位置に入れられていた。
 そこに入れることも、取ることができるのは、大人だけ。

「やるわよ」
「ああ」
「倒れそうになったら、あんた達助けなさいよ」
「わかったわかった」

 拓人がそこにいる全員と顔を見合わせてから、少し速めに本を引っ張った。
 すると、本棚がバランスを崩し始めた。

「離れろ!」

 涼の合図をもとに、全員が一斉に本棚から離れると同時に、本棚がゆっくりと倒れ、本が散らばった。

「こういうことか……」
「これは、誰も気づかないわ」
「この本棚も、倒れやすいように加工されてるけど、こんなの気づくわけないし」
「置き方のルールが分からなければ、再現することすら難しいだろうな……」

 そんな会話が、動画の最後だった。

「こ、これは一体……」

 女狐さんが聞くと、涼はスマホを胸ポケットにしまいながら言葉を続けた。

「この女は、旦那さんの本棚に細工をしたんだ。まあもっとも狙いは旦那さんではなく……香澄だったみたいだけど」
「何よそんな動画……馬鹿馬鹿しい……なんで私がそんなことを……」

 そういうと、涼は香澄の母親の服の襟を掴んだ。

「言い逃れしようとしたって無駄なんだよ。当時この本棚の細工に関わった人間も突き止めた」
「……は?」
「私たちには、いい、お友達がいるの。だからちょっと裏ルートで探れば、こんな小賢しい悪党は簡単に見つかるわけ」

 そう言いながら、拓人は自分のスマホを操作した。

「本当にあなた、男関係やばすぎ。当時の不倫相手に全部聞いてきたから」
「はあ!?」
「あと、当時あなたが香澄のためにかけてた保険の保険会社さんにもね」
「ふざけた話だよね。子供が邪魔で消したいけど、どうせなら死亡補償の保険金は欲しい。どうにかして事故で香澄が死んでくれればいいのに……そんなことを不倫相手に言った結果が、あの殺人本棚だ」
「まあでも、誤算だったのは、香澄ではなくて、香澄の父親が死んでしまったことだった……ってところかしら。私が、あなたが当時払った口止め料の10倍払って、ついでにそいつの借金チャラにしてあげたら、ペラッペラ喋ってくれたわよ」

 ここまで涼と拓人が話しきった時だった。
 いかつい顔をした男性が1名入ってきた。
 動画にも、その顔はいた。

「話は終わったか?」
「ええ、刑事さん。この女の顔見てるだけでも吐き気がするから、とっとと連れていってくれない?」

 そう言いながら、拓人は自分のスマホを、刑事さんと呼んだ人に渡した。

「ったく、面倒い事件拾いやがって」
「お礼にまた、ネタあったら流してね」
「……高い酒は必須だからな」

 刑事さんは、そのまま涼につかまれっぱなしの香澄の母親に近づいた。

「色々話を聞かなきゃいけないことがあるみたいですね。詳しくは署で」

 そのまま涼から香澄の母親を受け取ると、刑事さんは香澄の母親を引きずるようにあっさり連れ去っていった。
 先ほどまでの流れが、怒涛すぎたからだろうか。
 2名しかいなくなっていないはずなのに、誰もいなくなったかのような静寂が広がった。
 でも、そのほとんどの人間の関心は今、たった1人にしかなかった。
 目の前で母親がしでかしたこと……かつて自分の命を奪おうとしたことを知った香澄は、地面を向いたまま全く動かない。

「香澄?大丈夫?」

 最初に沈黙を破ったのは涼だった。
 それから、また2分ほどの沈黙が続き、ようやく香澄のか細い声が、部屋に広がった。

「おばあちゃんが言った通りだったんですね。私が死神だから、お父さんは死んだんだって」
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