二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
「行かなきゃ……」

 香澄は立ち上がった。自分が今何をすべきか分かったから。

「香澄?」
「どこに行くの!?」

 香澄を止める声は、確かに香澄には届いた。
 でも、何故彼らが自分の行動を止めるのか、理解できなかった。

「病院……」

 香澄の足は止まらなかった。
 もし、エレベーターホールがなければ。
 そしてエレベーターが来るのがもう少し速かったならば、きっと香澄は誰にも追いつかれずにビルから立ち去っていたかもしれない。

「香澄!待って!」

 エレベーターの扉が開き、中に入ろうとした香澄の腕を引っ張ったのも、そのまま自分の胸に閉じ込めたのも涼だった。

「香澄、どこに行こうとしてるの?」
「病院……」
「どうして?
「赤ちゃん……私から出してあげなきゃいけないから」

 香澄は、愛おしげに自分のお腹に声をかける。

「私なんかのところに来たら、死神の私が不幸にしちゃう。そうすると、この子もかわいそう。私も天国に行けなくなっちゃう」
「誰がそんなこと言った?」
「おばあちゃん」
「…………そうか…………そこにもいたのか…………」

 涼の声が、少し低くなったことに香澄は気づいた。
 けれどその意味すら、香澄にとってはどうでもよかった。
 それよりずっと大事なことは、ここにいる赤ちゃんを助けることだと、香澄は本気で信じたから。
 しばらくの無言が続いた後

「香澄!兄貴!?」

 拓人が後ろから現れた。
 それと同時に、涼の腕の力が緩んだ。
 その隙に、香澄は涼の腕から逃れ、エレベーターのボタンを連続で押し続けた。
 エレベーターは、すでにどこかに行ってしまっていたのか、すぐ扉は開かなかった。

(早く、早く……!!)

 香澄が焦っている間、涼と拓人は何か会話をしているようだった。
 でも、香澄がボタンを押す音にかき消されて、よく聞こえない。

「よかった。間に合った……はい」

 拓人は香澄ではなく、涼に何かを渡したようだった。

「拓人……」

 涼は、驚いたような声だった。

「言っておくけど、私はあなたのことを認めたわけじゃないから。でも……」

 その瞬間、エレベーターの扉が開いた。
 今だ、と香澄が乗り込もうとしたその時

「えっ!?」

 香澄の体が、急に宙に浮いた。
 涼が、香澄の体を抱き抱えたからだった。

「ここは、あんたに任せるから、香澄のこと、頼んだわよ」
「言われなくても」

 それから涼は、香澄を抱えたままエレベーターに乗り込んだ。
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