二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
「……え?」
「僕は、君が好きだと言うなら何者でもなれるし、どんな言葉でも囁くよ」
「先生?」
「吸血鬼になってと君がいうのなら」

 涼は、香澄の首筋を、唇だけで噛みながら

「僕はこうして、君の血だけを吸う吸血鬼になるよ」
「んっ……!」

 涼の唇は、そのまま香澄の顎下、頬、口周り、そして、唇へと移動する。

「んん……」
「こうして……ん……君の美味しいところを余すとこなく食べてあげるよ。それにね」

 涼は、自分の額を香澄の額にこつんと当て、香澄と自分の手を絡ませる。
 お互いの体温が額越しに交わっていく。
 まるで、あのクリスマスイブのように。

「君を魔物から救う勇者にも、逆に君を攫ってしまう魔王にも、僕はなれるんだ。でもね。それは君がいなければ、全て無意味だ」
「無意味……?」

(なんて、この人に似つかわしくない言葉なのだろう……)

「そんなこと、言わないでください」
「香澄?」
「先生が無意味だったら、私はどうなるんですか?私なんて、存在こそ無意味です……誰の役にも立てない…………」

 この世界に生きていること、そのものが。

「いいよ。他の奴に君が無意味でも」
「先生?何言って……」
「むしろその方が、ずっと好都合だ。だってそうしたら、僕は一生……君を独り占めできるだろう?」

 次から次へと、香澄に与えられる言葉は全部、香澄のマイナスをポジティブに変えるものばかり。

「私は、つまらない人間で」
「僕にとってはびっくり箱のような子だよ」
「それに、声とか可愛くないし」
「吐息混じりの囁く時の声は、誰よりもセクシーだよ」
「…………そ、それに……私太ってるし」
「一生抱きしめても、飽きないよ」
「話すのも、下手だし」
「ちゃんと会話のキャッチボールができているよ」
「…………それに……」

 香澄は、いつもだったらもっと、自分を否定することを言えたはずだった。
 どこまでも自分を傷つけることができる語彙を、手に入れたはずだから。
 そうして、この三次元の世界で生きたいと願う度、香澄はその気持ちを押し殺してきたのだ。
 祖母の言いつけを守るために。
 そして、自分が三次元の誰かを愛することで、誰かの命を奪ってしまわないために。
 それなのに。

(言葉が、出てこない……)

「……もう、終わり?」
「え?」
「まあ、言葉で君を愛で続けるだけなら、これから無限にさせてもらうとして」

 涼は、ゆっくり自分の額を離しながら、香澄の目をじっと見つめる。
 その目にとらわれた香澄は、目をそらす事すら、もうできなくなった。

「さて、香澄。僕は弁護士だけど、検事や裁判官にもなれるんだよ」
「……え?」
「司法試験に合格してるからね」

(……それは、ネタとして取材していいということだろうか?)

 瞬時に職業病的発想になった自分を、香澄は本気で呪いたくなった。
 
「それでね…………香澄は今、被告人だ」
「はい?」
「僕を翻弄し続けた罪を、ちゃんと償ってもらわないと……ね……」
「私が?涼先生を翻弄?」
「そうだよ。もうずーっと、僕は君に振り回されっぱなしだ。数ヶ月もね」

(私は翻弄されっぱなしですが、私がこの人を翻弄することなんて……)

「小森香澄さん」
「……はい」
「僕は、まず検事としてあなたに求刑します」

 その言い方があまりにもおかしくて、香澄はまた微笑した。
 涼も、微笑みながらこう言った。

「あなたに、僕の側に居続ける終身刑を言い渡します」
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