二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 香澄は、引き込まれるようにグラスに口をつけ、まず一口飲む。

(お、美味しい……!!)

 甘酸っぱいグレープフルーツの味が、香澄の口の中いっぱいに広がっていく。
 ジュースのような飲みやすさと、喉がカラカラに乾いていたこともあり、香澄はあっという間に半分飲み切ってしまった。

「いかがですか?」
「美味しいです……とても……」

 香澄にとって、カクテルの思い出は大学時代にイヤイヤ付き合われて飲み会で飲んだカシオレの味だけ。誰とも話すことができず、ちまちまと時間潰しのために飲んだそれは、甘ったるいのに、苦々しい味がした。
 そんな思い出が、一気に塗り替えられてしまった。

(カクテルって、こんなに美味しいんだ……)

 初めて、飲み物を飲んで心の中がふわっと軽くなるような幸福感を香澄は感じた。
 香澄が、もう一口と唇をグラスにつけた時だった。

「どうですか?」

 男性が、香澄の濡れた髪に触れながら尋ねてきた。

「恋愛できる魔法、かかりそうですか?」
「え……?」

 香澄は、男性の方を見る。
 男性は、優しい笑みを浮かべながら、楽しそうに香澄のミディアムロングの髪の毛先を遊ばせていた。
 香澄は、男性の目の中にいる自分に気づき、少し恥ずかしくなった。

「あ……あの……分かりません」

 耐えられなくて、男性から目を逸らしながら、香澄はグラスの苺を近くに置いていたフォークでツンツンつついた。

「そうですか。でも……あなたの肌は、少しピンク色になってますね」
「え?」

 男性はそう言うと、香澄の頬に優しく触れる。

「ほら、気づいてませんか?少し頬が熱くなってる」

 男性の指先は、自分の指先とは違う触感だった。
 少し硬めだが、自分の肌と接触している箇所が、とても心地いいと香澄は思った。

「どうです?恋の魔法、かかりそうですか?」
「それ……は……」

 この時、香澄は少しずつ体内に回り始めたアルコールのせいか、思考力が少し低下していた。
 本当なら、こんな風に知らない人に触れられたら「やめてください」と拒絶をし、距離を取るのが、いつもの香澄にとっては正しいことだった。それ程までに、人との肉体的接触も香澄は得意ではなかったから。
 でも今は違った。
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