二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 香澄の横にいる男性が何者か全く分からない。けれども何故か、男性の体温や香りが、香澄に落ち着きを与えている。
 シナリオでは、そんなシチュエーションを書いていた香澄。でも、今この時までは意味が全く分からなかった。
 そういう表現が、売れているゲームや少女漫画に多いから。
 そんな理由でしかピックアップできなかった文字だけの気持ちを、香澄は初めて自分のものとして感じることができている。

(も、もしかすると……)

 この時、香澄の脳内にはこの場所にきた目的が蘇る。

「恋愛経験が足りない」
「リアリティがない」

 そんなことを指摘されたものの、恋とは何かすら分からない。
 人を自分がおかしくなる程求めたことなんか、1度もない。
 むしろ、どうすれば人と関わらなくても良いかばかりを、ずっと考えていた。
 だから、香澄は驚いた。
 この男性の香りをもっと嗅いでみたい。
 この男性の手で、他の場所も触れられてみたい。
 そんな風に考えてしまう、知らなかった自分がひょこっと現れたことに。

「あの……私……」

 次、何の言葉を言おうか決める前に、香澄は声を出してしまった。
 
「ん?」

 そんなしどろもどろな香澄の言葉に、男性は優しく相槌を打つ。
 こんなに胸がときめく「ん」を、香澄は知らなかった。
 だからなのだろうか。
 それとも、アルコールの力が、香澄の羞恥心にベールを被せたのだろうか。

「お願いがあります」
「何でしょう?」

 男性がそう言いながら、親指で香澄の目元に触れた。

「私に、恋愛のことを教えてくれませんか?」

 男性の親指が濡れたのを見るまで、香澄は自分が涙を流していること気づかなかった。
 男性の瞳孔が満月のように一瞬大きくなったが、すぐに豆粒のように小さくなった。

「その理由を……お聞きしても?かわいいお嬢様」

 耳たぶに触れるか触れないかの距離に唇を寄せて囁く男性の声と吐息は、香澄の肩の力をするっと抜けさせ、香澄は男性の胸に頭を預ける形になってしまった。
 それが、香澄の涙腺を崩壊させるきっかけとなった。
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