二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 男性は、香澄の唇に触れた親指で、今度は頬、顎をなぞってから、香澄の顎を軽く持ち上げた。
 男性の唇と、香澄の唇の距離がほんの少し縮まった。

「どうでしょう?」
「どうでしょうって……言われても……」

 男性の目の中に、自分の狼狽えた顔が映るのが恥ずかしくて、香澄は目線を逸らそうとする。
 けれど、いつの間にか男性の両手の平に香澄は頬を挟まれ、顔を固定されてしまっていた。

「こっち見て」

 あまりにも優しげに問いかけられてしまったので、ふっと男性の顔に視線を戻す。
 このまま恋愛ゲームのスチルに使われてもおかしくないような、神々しいまでに微笑んでいる男性の顔が、目と鼻の先まで来ていた。

「あ、あの……その……」
「あなたは、恋愛体験が欲しいのでは?」
「ど、どうして……それを……」
 香澄の問いかけに、男性は「やっぱりね」と言いたげな笑みを浮かべる。
 しどろもどろの話の中で、男性は香澄の心の奥底に眠る本音を導き出してしまっていたことに、香澄は驚いてしまった。
 香澄だって出来るなら、人生1度くらいは甘い恋愛体験というのをしてみたかった。
 簡単にできるのであれば、そうしたかった。
 でも……できなかった。
 恋愛における最も重要なスキルは、コミュニケーション力と言われている。
 その中でも、会話力は特に重要なものの1つ。
 そして、香澄は口下手で話すのが上手じゃない。
 文字にすれば、たくさんの言葉が溢れてくれるというのに、話し言葉の語彙力が圧倒的に足りないせいなのか、会話で相手が求める反応1つろくにできないというのが、香澄の弱点であり、親以外とのコミュニケーションを強制され始めた保育園時代からの悩み。
 そして、それが解決される気配は今のところ……ない。
 
「僕では、お役に立てませんかね?」
「えっ!?」

 お役に立たないどころか。
 他の女性ならお金を払ってでも、こんな素敵な人とデートをしたいと思うだろう。
 だからこそ、香澄は余計不思議だった。
 
「どうして……私に……優しくしてくれるんですか?」
「優しい?僕が?」
「はい。とても」
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