二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 ほんの数時間前、同じ場所で体を清めた時は、純粋に非現実的な世界を楽しむことができた。
 だが、今の香澄は違った。
 とんでもない間違いを犯してしまったのではないか。
 そんな恐怖が、じわじわと香澄の心に侵食し続けているのだ。
 自分がとんでもない発言をしたことも。
 それによって、リョウという綺麗すぎる男性に自分のこの、誰得でもない体に触れさせてしまったことも。
 そして、自分にはあまりにも恐れ多すぎる極上の場所で初体験をさせてもらったことも。
 それら全てが、自分の言葉がきっかけだったことに、香澄は申し訳なさすら感じていた。
 そんなことを考えていたせいだろうか。
 香澄は自分がお湯ではなく、冷水のシャワーを浴びていることにも気付けなかった。
 バスルームから出ると、ランドリー行きだった、昨晩身につけていたピンク色のワンピースが洗面台の上にいつの間にか置かれていた。
 この服は、香澄にとっては精一杯のおしゃれだった。
 高級なホテルのレストランにいても、おかしくないような人間だと周囲から思われるようにと、必死に香澄なりに考えた結果の選択。
 本物になれなくてもいいけれど、少しでも本物に近づきたかった。
 そして実際、このワンピースを身につけていた昨日は、確かにそうなれていた、と、ほんの少しだけ思うことはできていた。
 だから、このホテルにたった一人で飛び込むこともできたのだ。
 でも、本物を知ってしまった今の香澄は、同じように身につけても気持ちが変わってしまった。
 昨日は夢の始まりを示していた、服を着るという行為が、今では1枚ずつ自分の肌に布を重ねていくごとに、少しずつ夢の世界から現実に香澄を引き戻していった。

「準備できた?」

 バスルームから出てすぐ、香澄はリョウに声をかけられた。
 立っているだけでも、雑誌の世界を切り取った世界にいるような人だと思った。
 
(ダメだ。世界が違う)

 それが、香澄の心のキャパがオーバーした瞬間だった。
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