二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 消えた時の悲しさの方が、愛を受けていた時よりずっと覚えている。
 でも二次元は違う。
 消えることなく、そこに残り続けるからこそ、安心してその愛を受け取れる。
 だから、香澄にとっては二次元の愛情は絶対的に変わることのない安心をくれるものとして機能していた。
 もう2度と、三次元の愛を受け取りたくない。
 受け取って、もしまた傷つくことになったら立ち上がれる自信がない。
 そう思ってしまうくらいには、香澄の心をズタズタにするのに十分なことを、母親はしてくれていたのだ。
 何度も見捨てようと思った。
 縁を切りたいと思った。
 それでも、最後どうしてもそれができない。
 そんな自分に嫌気が差しながらも、香澄は渋々母親が寄越してきた待ち合わせ場所を確認した。

「せりざわ……すず? 法律事務所?」

 東京の一等地にある事務所らしく、香澄にとっても1度は今後の作品のためのロケハンをしたいと思っていた場所だった。

「仕方がない……」

 これは母親のためではない。
 自分の仕事のためだ。
 母親のことは、そのついでだ。
 そう、自分自身で無理やり心の折り合いをつけてから、母親に

「わかりました」

 の返信を香澄はした。
 2月14日のバレンタインに母親に会うのは気がひけるが、その時までには体調が良くなっていれば、帰りにご褒美のチョコくらいは買おう。
 そんな小さなモチベーションと

「もう1回このノートを見て、ネタ考えよう……」

 という、自分が創り上げた文字として存在する彼を、どう生かすかを考える時間だけが、体調とメンタルが最悪な香澄を支えてくれていた。
< 59 / 204 >

この作品をシェア

pagetop