二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 もうすでに、吐けるものはほとんどなかったけれど、吐く動作をすることで落ち着かせることはできた。

(これ、もう今日やばいんじゃ……)

 香澄は、すでに命の危機も感じていた。

(やっぱり無理だって言おう。それからそのまま病院に行こう。このままだと私、死ぬ気がする)

 どう言えばあの母親を納得させられるか、悩みながら個室から出た時だった。

「やだ!この子ったらいつまでトイレに篭ってたのかしら!」

(最悪……)

 顔を見ただけで体調がますます悪くなる、会わなきゃいけないけれど会いたくなかった母親が、無駄に濃い化粧をさらに濃くしている場面に遭遇してしまった。
 そして……。

「もしかして小森様の御息女さまでしたか?」

 先ほどペットボトルを拾ってくれた、いい香りがする女性が、母親の側にいた。
 まるでお付きの人のように。

「あの……あなたは……」
「当事務所にお越しくださいましてありがとうございます。この後お二人の準備ができましたら、ご案内しますね」

(この人が、せりざわ……すずさん……?)

 その女性は、ツヤツヤな黒髪をシニョンにまとめ上げており、派手ではないものの有能だと分かるキリッとした顔立ちをしていた。
 体調不良が言い訳にできないくらい、適当にその辺に落ちていた、数年前に買ったリクルートスーツを無理やり着て、髪の毛もポニーテールでごまかしている香澄はそんな女性の姿を見てこう思った。

(世界が違う)

 いる場所も何もかもが自分と違う人の横に立つことほど惨めなことはないと、香澄は改めて思ってしまった。
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