二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
「半年前って……8月ですよね」
「ええ。あの作品の締め切り間近のデスマーチを私たちがしていた頃よ」
「あー……」
(思い出すだけで、目眩がしそう)
デスマーチ。
直訳すると死の行進。
実際の意味は、連日の長時間労働。
まだ情報も出ていないけれど、世界的に有名な異世界恋愛ファンタジーゲームの続編のシナリオの制作をしていた。
メインシナリオは、前作に続いて八島。
ファンの間で八島の存在は神と同等に扱われていた。
ただ、続編は前作に比べてより大掛かりなプロジェクトということもあり、量を捌くことが必要だったらしい。
そこで、大量の新人シナリオライターにも声がかけられたのだ。
その中に、まだプロとして書き始めたばかりの香澄も入っていた。
まだ、小さなアプリゲームの仕事しかしていなかった香澄にとって、そのプロジェクトに参加するのは荷が重かった。
元々そのゲームのタイトルがどれだけ人気なのか知っていたから。
もちろん、アサインされたことは嬉しかった。
頑張りたいと、香澄は必死で勉強し、厳しい修正依頼にも耐え続けた。
でも、その尋常じゃない指摘の量は、香澄の心を折るには十分すぎた。
悩んだ末、香澄はディレクターに降板を申し出た。
そんなことをすれば、これから仕事が貰えないかもしれないという恐怖よりも、このまま自分がこの作品に関わってもいいのだろうか、という悩みの方が勝ってしまったのだ。
その申し出から1日後。
この時はまだ、ビジネスチャットツール上で、文字のやり取りをしていない八島から突然通話がかかってきた。
(えっえっ!?)
香澄にとって、当時から八島は雲の上の存在。
今よりもずっと遠くて、文字を送るだけで緊張をしていた程。
そんな相手が、文字をスッとばして通話を求めていることに、香澄は動揺した。
(出たくない……)
そうは言っても、チャットツールは無常にも自分が在席状態であることを伝えてしまっている。
1分程フリーズ状態だった香澄だったが、着信音も鳴り止む様子を見せなかったので、恐る恐る通話ボタンをクリックした。
「も……もしもし……」
その瞬間だった。
「小森さん!あなた、このプロジェクト抜けるってどういうことよ!?」
「えっ?ええっ!?」
文字上では、確かに数回ほど挨拶程度のやりとりをしただけ。
あとは、ディレクターを通じてのコミュニケーションのみだった。
そんな人間からいきなり「どういうこと!?」と問い詰められて、香澄はパニックになった。
「あの、すみません!」
速攻通話ボタンを切った。
無意識に。
(や、やってしまった……)
もう、終わりだと思った。
(これで私のシナリオライター生命絶たれた……)
しかし、香澄が落ち込む間も無く、再び通話音が鳴り響く。
八島、再びだった。
流石に今度は取らないとまずいと考えた香澄は、今度は15秒くらいで通話ボタンを押して
「さ、先ほどは突然通話を切ってすみませんでした!」
捲し立てるように謝罪をした。
それから、ほんの5秒程の沈黙の後
「私も悪かったわ、急に怒鳴ってごめんなさいね」
と謝罪されてしまい、また香澄はパニックを起こしそうになった。
あの、ヒットメーカーの八島が自分なんかに謝っている。
その事実が、香澄にとっての過呼吸案件だった。
「こ、小森さん?どうしたの!?」
「す、すみません……」
「ちょっと!大丈夫!?落ち着きなさい!ほら、ゆっくり息を吸って、吐いて!」
「はっはい……」
「返事はいいから!」
それから15分程、香澄の過呼吸が落ち着くのを通話状態を続けながら八島は待ってくれた。
まさか最初の通話がそんな始まりになってしまうとは思わず、香澄は落ち着いた後も泣きそうだった。
そのことを伝えたところ、香澄にとって予想外の言葉が返ってきた。
「泣きそうなのはこっちよ!」
「え?」
「せっかく目をつけてたあなたに降板したいって言われて、すっごく傷ついたのよ!私!」
「え?え?」
それから、八島は切々と香澄に語った。
トライアルの原稿を見た時から、香澄の言葉の使い方に惹かれていたこと。
絶対に香澄と一緒にこの仕事を成功させたいと思っていたこと。
だからこそ、ディレクターも熱が入るすぎる指導をしてしまったことを。
「まさかそれが、あなたの自信を奪う結果になったなんて……」
「でも、私本当に自信がなくて……」
「どうして?私、あなたの文章が大好きなのよ。一緒に仕事したいのよ」
「八島さんにそんなことおっしゃっていただけて……私……夢みたいで……」
香澄は、一つひとつ言葉をつむぐ度、涙が溢れてきた。
「ねえ、小森さん。あなたが自信がないのって……修正対応だけ?」
「そ、それだけじゃないですぅ……」
キャラクターの造形の深掘りも、美しい世界観を補完する語彙力も圧倒的に足りない。
八島に手を伸ばそうとしても届かない。
それが悔しくて仕方がないと、拙い言葉で香澄は必死に説明した。
一通り、香澄の説明が終わり、香澄が鼻をすすった時だった。
八島が
「合宿!しましょう!」
と提案してきたのは。
「ええ。あの作品の締め切り間近のデスマーチを私たちがしていた頃よ」
「あー……」
(思い出すだけで、目眩がしそう)
デスマーチ。
直訳すると死の行進。
実際の意味は、連日の長時間労働。
まだ情報も出ていないけれど、世界的に有名な異世界恋愛ファンタジーゲームの続編のシナリオの制作をしていた。
メインシナリオは、前作に続いて八島。
ファンの間で八島の存在は神と同等に扱われていた。
ただ、続編は前作に比べてより大掛かりなプロジェクトということもあり、量を捌くことが必要だったらしい。
そこで、大量の新人シナリオライターにも声がかけられたのだ。
その中に、まだプロとして書き始めたばかりの香澄も入っていた。
まだ、小さなアプリゲームの仕事しかしていなかった香澄にとって、そのプロジェクトに参加するのは荷が重かった。
元々そのゲームのタイトルがどれだけ人気なのか知っていたから。
もちろん、アサインされたことは嬉しかった。
頑張りたいと、香澄は必死で勉強し、厳しい修正依頼にも耐え続けた。
でも、その尋常じゃない指摘の量は、香澄の心を折るには十分すぎた。
悩んだ末、香澄はディレクターに降板を申し出た。
そんなことをすれば、これから仕事が貰えないかもしれないという恐怖よりも、このまま自分がこの作品に関わってもいいのだろうか、という悩みの方が勝ってしまったのだ。
その申し出から1日後。
この時はまだ、ビジネスチャットツール上で、文字のやり取りをしていない八島から突然通話がかかってきた。
(えっえっ!?)
香澄にとって、当時から八島は雲の上の存在。
今よりもずっと遠くて、文字を送るだけで緊張をしていた程。
そんな相手が、文字をスッとばして通話を求めていることに、香澄は動揺した。
(出たくない……)
そうは言っても、チャットツールは無常にも自分が在席状態であることを伝えてしまっている。
1分程フリーズ状態だった香澄だったが、着信音も鳴り止む様子を見せなかったので、恐る恐る通話ボタンをクリックした。
「も……もしもし……」
その瞬間だった。
「小森さん!あなた、このプロジェクト抜けるってどういうことよ!?」
「えっ?ええっ!?」
文字上では、確かに数回ほど挨拶程度のやりとりをしただけ。
あとは、ディレクターを通じてのコミュニケーションのみだった。
そんな人間からいきなり「どういうこと!?」と問い詰められて、香澄はパニックになった。
「あの、すみません!」
速攻通話ボタンを切った。
無意識に。
(や、やってしまった……)
もう、終わりだと思った。
(これで私のシナリオライター生命絶たれた……)
しかし、香澄が落ち込む間も無く、再び通話音が鳴り響く。
八島、再びだった。
流石に今度は取らないとまずいと考えた香澄は、今度は15秒くらいで通話ボタンを押して
「さ、先ほどは突然通話を切ってすみませんでした!」
捲し立てるように謝罪をした。
それから、ほんの5秒程の沈黙の後
「私も悪かったわ、急に怒鳴ってごめんなさいね」
と謝罪されてしまい、また香澄はパニックを起こしそうになった。
あの、ヒットメーカーの八島が自分なんかに謝っている。
その事実が、香澄にとっての過呼吸案件だった。
「こ、小森さん?どうしたの!?」
「す、すみません……」
「ちょっと!大丈夫!?落ち着きなさい!ほら、ゆっくり息を吸って、吐いて!」
「はっはい……」
「返事はいいから!」
それから15分程、香澄の過呼吸が落ち着くのを通話状態を続けながら八島は待ってくれた。
まさか最初の通話がそんな始まりになってしまうとは思わず、香澄は落ち着いた後も泣きそうだった。
そのことを伝えたところ、香澄にとって予想外の言葉が返ってきた。
「泣きそうなのはこっちよ!」
「え?」
「せっかく目をつけてたあなたに降板したいって言われて、すっごく傷ついたのよ!私!」
「え?え?」
それから、八島は切々と香澄に語った。
トライアルの原稿を見た時から、香澄の言葉の使い方に惹かれていたこと。
絶対に香澄と一緒にこの仕事を成功させたいと思っていたこと。
だからこそ、ディレクターも熱が入るすぎる指導をしてしまったことを。
「まさかそれが、あなたの自信を奪う結果になったなんて……」
「でも、私本当に自信がなくて……」
「どうして?私、あなたの文章が大好きなのよ。一緒に仕事したいのよ」
「八島さんにそんなことおっしゃっていただけて……私……夢みたいで……」
香澄は、一つひとつ言葉をつむぐ度、涙が溢れてきた。
「ねえ、小森さん。あなたが自信がないのって……修正対応だけ?」
「そ、それだけじゃないですぅ……」
キャラクターの造形の深掘りも、美しい世界観を補完する語彙力も圧倒的に足りない。
八島に手を伸ばそうとしても届かない。
それが悔しくて仕方がないと、拙い言葉で香澄は必死に説明した。
一通り、香澄の説明が終わり、香澄が鼻をすすった時だった。
八島が
「合宿!しましょう!」
と提案してきたのは。