二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
合宿といっても、本当にどこか泊まりに行くというわけではなかった。
香澄と八島、二人の予定を二日分を確保する。
その二日間、睡眠時間や緊急事態を除いて、オンラインツールで繋ぎっぱなしにする。
その上で、一緒にシナリオ制作をしていくという方法だった。もちろん、ご飯を食べる時も繋ぎっぱなしで
「何を食べてるの?」
という雑談から始まり
「そのご飯をテーマに作品を作るなら?」
「今食べている食材について少し調べてみなさい、ネタに繋がるから」
といった、シナリオ制作のトレーニングに繋がる話も、八島主導でさせられた。
ちゃんと会話ができる人と同じ時間にご飯を食べるということが久々だった香澄は、最初こそなかなかご飯が喉に通らない状態だった。
しかし八島の、香澄を思いやってくれるトークのおかげもあり、最後のご飯の時間には、香澄は自分の推しゲームを八島に紹介できるようになるくらいには、人として八島に信頼を寄せられるようになった。
もちろん、この合宿の成果はそれだけではない。
実際に、プロ中のプロの八島がどうやって原稿を仕上げているのか、オンラインミーティングツールの画面共有機能で、リアルタイムに確認をすることができた。
「こういう指摘が来た時は……」
「表現被りそうになったらこのサイトが便利」
など、文字で見るだけよりずっと実践的なスキルを身につけることができた。
その結果、8月の案件を乗り越えることが出来ただけではなく、シナリオライターとしてのスキルも一気にUPさせられ、八島とも親しくなり、それから今日に至るまで色々とお世話になることになった。
まさに、ターニングポイントとも言える二日間だった。
「香澄ちゃん」
「はい」
「この合宿を提案した時、あなたが私に最初に言ったセリフ、覚えている?」
「セリフ?」
抱えているクッションをぎゅっと抱きしめながら、その時期のことを振り返る。
(確かあの時、合宿って聞いて……)
「あっ……」
(思い出した)
「思い出した?」
八島が、確認をするように香澄に尋ねる。
「は、はい……」
香澄が言った話……というよりもお願い……は、八島の厚意もあり、今日までしっかり守られていた。
画面共有はちゃんとする。
課題があるなら、ちゃんと出す。
もちろん、声もちゃんと出す。
けれど顔出しは絶対にしない。
この条件を香澄が話した時、最後に付け加えたのが
「もし私の顔を見られたら、舌噛み切って死にます」
だったのだ。
「……そ、その節は……」
八島にその事を改めて言われて、自分は何て身勝手なことを言ったのだろうと思わされた。
「それはまあいいのよ。実際シナリオライターで、顔出ししたくない人なんて全世界にゴロゴロいるから。それより……」
その時、八島の表情が変わった。
香澄に対する慈愛に満ちた優しい表情から、一気に眉間に皺を寄せた怖い顔になった。
それは、それだけ考えているからなのだろう。
言うべきか。
言わざるべきか。
「あの、先輩……私、覚悟決めました」
「本当に?舌ここで噛んだりしない?」
「大丈夫。そんな事僕がさせないから」
芹沢涼が話に入ってくると
「五月蝿い馬鹿兄。香澄の手を離しなさい」
と、蠅を追っ払うような仕草をした。
香澄は「ははは」と苦笑いするしか、この二人にやりとりについてはできなかった。
そして、気を取り直したであろう八島が、改めて香澄を見る。
話す覚悟を決めた、というのが分かった。
「ねえ、香澄ちゃん。もう1つ思い出してほしい事があるのよ」
「はい」
「私、初日と二日目で、オンラインミーティングツールを変えましょうって提案したの、覚えてる?」
「あ、はい」
最初はGoogle meet。
ブラウザ上ですぐ会話できる簡単なものだからと、最初に八島が教えてくれたもの。
確かに、URLをクリックするだけで八島と繋がることができる、簡単なものだった。
ところが次の日の朝。
急に八島はZOOMというツールを提案してきた。
「こっちの方がメジャーだから、という理由ですよね」
「ええ、まあそれもあるんだけど……」
「え?」
「香澄ちゃん、この2つの違いって……思い出せる?」
「違い……ですか?」
もう、ZOOMを使って長いので、逆にGoogle meetがどういうものだったのか、香澄は思い出せないでいた。
表情から、香澄が言いたいことが読み取れたのか、八島は
「分かった、話すわ」
と大きなため息を漏らした。
それに合わせて、香澄はゴクリと息を飲み干す。
「画面共有の時、Google meetとZOOMで最大の違いがあるの」
「え?」
「もしあなたが、1度でも自分の意志で顔出しオンラインミーティングをしていれば、すぐにこの違いに気づいたでしょうけど」
「ど、どういう事ですか……?」
「Google meetは、画面共有中……相手の顔が見えなくなるデメリットがあるの。ZOOMの場合は、相手の顔が見えたまま画面共有ができる」
「そ、そうなんですか……」
「それでね、香澄ちゃん」
「はい」
「初日の夜、あなたに画面共有させながらシナリオの指導したじゃない?」
「はい」
「あの時、寝るまでに1度でもGoogle meetの画面を……見た?」
「……え?」
「きっと、見てないんでしょうね」
「え?え?」
「でなければ、気づいたはずでしょうから」
「何を……」
ここまで八島が話したことで、香澄の頭にある仮説がよぎった。
できれば、当たって欲しくない、嫌な仮説が。
しかし、八島のため息と苦笑いは、香澄の仮説が正しいということを、言葉の前に証明してしまった。
「あなたあの日の夜、ずーっと自分の顔を映したままだったのよ。多分、画面共有をした時に操作ミスしたんだろうけど」
八島が、何故ここまで「香澄の名誉」という言葉を使い続けてきたか、ようやく分かった。
その上で、香澄は瞬時に思った。
今すぐ舌噛み切って死んでしまいたいと。
他の人にとっては大した事がなかったとしても、香澄にとっては大したことがありすぎる、致命的なミスだった。
「まあ、話がこれで、終わってれば良かったんだけどね」
(まだあるのか……!?)
八島は、涼を睨みつけながら
「この男は、それをまんまと利用しやがったのよ」
と言い出した。
香澄と八島、二人の予定を二日分を確保する。
その二日間、睡眠時間や緊急事態を除いて、オンラインツールで繋ぎっぱなしにする。
その上で、一緒にシナリオ制作をしていくという方法だった。もちろん、ご飯を食べる時も繋ぎっぱなしで
「何を食べてるの?」
という雑談から始まり
「そのご飯をテーマに作品を作るなら?」
「今食べている食材について少し調べてみなさい、ネタに繋がるから」
といった、シナリオ制作のトレーニングに繋がる話も、八島主導でさせられた。
ちゃんと会話ができる人と同じ時間にご飯を食べるということが久々だった香澄は、最初こそなかなかご飯が喉に通らない状態だった。
しかし八島の、香澄を思いやってくれるトークのおかげもあり、最後のご飯の時間には、香澄は自分の推しゲームを八島に紹介できるようになるくらいには、人として八島に信頼を寄せられるようになった。
もちろん、この合宿の成果はそれだけではない。
実際に、プロ中のプロの八島がどうやって原稿を仕上げているのか、オンラインミーティングツールの画面共有機能で、リアルタイムに確認をすることができた。
「こういう指摘が来た時は……」
「表現被りそうになったらこのサイトが便利」
など、文字で見るだけよりずっと実践的なスキルを身につけることができた。
その結果、8月の案件を乗り越えることが出来ただけではなく、シナリオライターとしてのスキルも一気にUPさせられ、八島とも親しくなり、それから今日に至るまで色々とお世話になることになった。
まさに、ターニングポイントとも言える二日間だった。
「香澄ちゃん」
「はい」
「この合宿を提案した時、あなたが私に最初に言ったセリフ、覚えている?」
「セリフ?」
抱えているクッションをぎゅっと抱きしめながら、その時期のことを振り返る。
(確かあの時、合宿って聞いて……)
「あっ……」
(思い出した)
「思い出した?」
八島が、確認をするように香澄に尋ねる。
「は、はい……」
香澄が言った話……というよりもお願い……は、八島の厚意もあり、今日までしっかり守られていた。
画面共有はちゃんとする。
課題があるなら、ちゃんと出す。
もちろん、声もちゃんと出す。
けれど顔出しは絶対にしない。
この条件を香澄が話した時、最後に付け加えたのが
「もし私の顔を見られたら、舌噛み切って死にます」
だったのだ。
「……そ、その節は……」
八島にその事を改めて言われて、自分は何て身勝手なことを言ったのだろうと思わされた。
「それはまあいいのよ。実際シナリオライターで、顔出ししたくない人なんて全世界にゴロゴロいるから。それより……」
その時、八島の表情が変わった。
香澄に対する慈愛に満ちた優しい表情から、一気に眉間に皺を寄せた怖い顔になった。
それは、それだけ考えているからなのだろう。
言うべきか。
言わざるべきか。
「あの、先輩……私、覚悟決めました」
「本当に?舌ここで噛んだりしない?」
「大丈夫。そんな事僕がさせないから」
芹沢涼が話に入ってくると
「五月蝿い馬鹿兄。香澄の手を離しなさい」
と、蠅を追っ払うような仕草をした。
香澄は「ははは」と苦笑いするしか、この二人にやりとりについてはできなかった。
そして、気を取り直したであろう八島が、改めて香澄を見る。
話す覚悟を決めた、というのが分かった。
「ねえ、香澄ちゃん。もう1つ思い出してほしい事があるのよ」
「はい」
「私、初日と二日目で、オンラインミーティングツールを変えましょうって提案したの、覚えてる?」
「あ、はい」
最初はGoogle meet。
ブラウザ上ですぐ会話できる簡単なものだからと、最初に八島が教えてくれたもの。
確かに、URLをクリックするだけで八島と繋がることができる、簡単なものだった。
ところが次の日の朝。
急に八島はZOOMというツールを提案してきた。
「こっちの方がメジャーだから、という理由ですよね」
「ええ、まあそれもあるんだけど……」
「え?」
「香澄ちゃん、この2つの違いって……思い出せる?」
「違い……ですか?」
もう、ZOOMを使って長いので、逆にGoogle meetがどういうものだったのか、香澄は思い出せないでいた。
表情から、香澄が言いたいことが読み取れたのか、八島は
「分かった、話すわ」
と大きなため息を漏らした。
それに合わせて、香澄はゴクリと息を飲み干す。
「画面共有の時、Google meetとZOOMで最大の違いがあるの」
「え?」
「もしあなたが、1度でも自分の意志で顔出しオンラインミーティングをしていれば、すぐにこの違いに気づいたでしょうけど」
「ど、どういう事ですか……?」
「Google meetは、画面共有中……相手の顔が見えなくなるデメリットがあるの。ZOOMの場合は、相手の顔が見えたまま画面共有ができる」
「そ、そうなんですか……」
「それでね、香澄ちゃん」
「はい」
「初日の夜、あなたに画面共有させながらシナリオの指導したじゃない?」
「はい」
「あの時、寝るまでに1度でもGoogle meetの画面を……見た?」
「……え?」
「きっと、見てないんでしょうね」
「え?え?」
「でなければ、気づいたはずでしょうから」
「何を……」
ここまで八島が話したことで、香澄の頭にある仮説がよぎった。
できれば、当たって欲しくない、嫌な仮説が。
しかし、八島のため息と苦笑いは、香澄の仮説が正しいということを、言葉の前に証明してしまった。
「あなたあの日の夜、ずーっと自分の顔を映したままだったのよ。多分、画面共有をした時に操作ミスしたんだろうけど」
八島が、何故ここまで「香澄の名誉」という言葉を使い続けてきたか、ようやく分かった。
その上で、香澄は瞬時に思った。
今すぐ舌噛み切って死んでしまいたいと。
他の人にとっては大した事がなかったとしても、香澄にとっては大したことがありすぎる、致命的なミスだった。
「まあ、話がこれで、終わってれば良かったんだけどね」
(まだあるのか……!?)
八島は、涼を睨みつけながら
「この男は、それをまんまと利用しやがったのよ」
と言い出した。