二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
「ど、どうしてそんなことを……」

 香澄がこれを聞いたのは、純粋な好奇心からだった。
 どうみても人生の成功者としか見えない涼が、そこまでするのか。

「嬉しいな」
「え?」
「香澄が、僕に興味を持ってくれるなんて」
「あ、それは……」
「それは、僕のこと知りたいってことだよね」

(どうしよう、何て説明すれば……)

「そんなわけないでしょバカ兄貴」

 すかさず、八島がツッコミを入れる。

「香澄が気にしているのは、あんたのことじゃなくて、あんたがどうしてそんな行動をしたのか、のバックグラウンド。つまり行動動機。……そうでしょう?」

 香澄は大きくうなずきながら、自分の思いを的確に言語化してくれた八島に、改めて感謝した。

「香澄、こいつの行動動機なんてたった1つよ」
「え?」
「嫌がらせ」
「はい!?」

 とても、ハイスペックで綺麗な男性には似つかわしくないワードが、八島から飛んできた。

「そのクライアント、きっとこう言ったんでしょうね。『俺は風呂なしアパートで苦労してきたんだから、犯罪をしてもしょうがないんだ。お前みたいな何も知らないお坊ちゃんなんかに、俺の苦労がわかるわけないし、弁護なんかできるわけない』。……違う?」

 涼はニコニコと微笑んでるだけ。

「どうせあんた、こう思ったんでしょう。『僕が君と同じ条件で暮らしてみせようか?』って」
「よく分かったね」
「同じような場面、どれだけ遭遇したと思ってんのよ。相手の心の軸を徹底的にへし折ってから、自分に跪かせるやり方は昔っから変わらない」

(今の流れで、どうして誰かを跪かせることに繋がるのだろう?)

 この2人の会話の中身は、香澄には分かるようで分からない。
 それはきっと、2人にしかない情報がある前提で会話が進められているからだろう。
 それが、香澄には少しもどかしかった。

「それで、そのクライアントは今どうなってるのよ」
「それがなかなか強情でね。僕がアパートに住んでいる証拠写真まで、わざわざ撮ってきてあげたのに『こんなの俺が知ってる暮らしじゃない!ありえない!』って喚かれて……」

(い、一体どんな家に住んでいるのだろう……)

 香澄は、ごくりと喉を鳴らした。
 ネットが発達し、誰もが情報発信ができるようになったこの時代。
 ある程度の家の内装や生活の中身は拾えるようにはなっている。
 それでも、気になってしまう。
 こんな二次元に生きるようなハイスペな人が、風呂なしアパートに暮らすとどんな生活をしているのか、と。
 香澄のシナリオライターとしての好奇心を、涼という男の存在はとにかく徹底的にくすぐってくる。
 そんな香澄の気持ちに、今度は涼が気づいたのか

「君には来てほしくないな」

 と先回りされた。

「なっ……」

 何で分かったんですか、と香澄が聞こうとすると、涼は人差し指でそっと香澄の唇を押さえながらこう言った。

「君のその視線は、もっと知りたいという欲望を僕に伝えてくる目なんだよ。あの夜の時みたいにね」
「っ……!!」
「あの夜も、僕の体と、快感を知りたいってずーっとその目で僕を見つめていたんだから」
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