90日のシンデレラ
 (本当に、面白い子だな、この子)
 (ガイダンスのときに目が合ってもシカトするし、エレベーターはエレベーターで強情でなかなか「うん」といわないし)
 (まったくもって、反応が読めない。今だって、この爆睡! 俺のことをまったく知らないんだろうな)

 「そんなふうに安心しきって寝られると……」

 安心しきって眠るなんて――その先のセリフは何なのか?
 とびきりのクーペに乗せて、きれいな夜景をみせに連れていき、自宅まで送る。助手席に乗せられた女子は、だいたいは感激して自分に絶賛の言葉を吐き、ドライブが終わった先のことを期待して愛想を振りまいてくる。

 しかし、いま助手席にいる真紘の反応は「子供かよ!」と思うような眠り方である。無防備すぎるこの反応、こんなのをみせられると保護者にでもなった気分だ。
 自分のことを男として認識していないのか、自分は恋愛対象外であるのか、それとも単に彼女が恋愛に厳格なだけで上司部下の間柄では恋愛御法度なのか?
 これは真紘がフリーであることが前提となっている瑠樹の心の声なのだが、おかしなことに真紘のカレシについての思慮は、すっぽりと瑠樹の中から抜け落ちている。

 「まぁ、そっとしておいてあげたいのは山々だが、そういうわけにはいかないからね~」

 いま路駐しているこの場所は、れっきとした公道。駐車場ではない。ここにずっと車を停めておくわけにはいかないのだ。
 いつまでたっても目を覚ましそうにない真紘に、瑠樹は見切りをつける。彼は静かに深呼吸して、実力行使に出た。

 瑠樹の大きな手が、真紘の肩にかかる。スーツジャケット越しであっても真紘の肩は薄く、瑠樹の手のひらの中にすっぽりと収まる。しっかりと肩を掴んだなら、そろりと揺する。もう朝ですよ、そろそろ起きないと……優しく真紘を起こしにかかったのだった。
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