90日のシンデレラ
 「ダメ。夜中にお嬢さんをひとりにするわけにはいかない」
 「そんな子供じゃないです」
 「だ・か・ら、だ。深夜を過ぎて人通りが減ったといっても、完全に無人ではない。部下に何かあれば、上司の責任になる」

 上司の責任になるといわれ、真紘は考えを改めた。
 考えを改めたものの、真紘は「女性でなくて部下」というところに引っかかりを感じる。キスをねだったくせに、とも思ってしまう。
 でもそこは、子供っぽい感情に振り回されてはいけない。「子供じゃない」といったのは、真紘のほうなのだ。

 「わかりました。ご配慮を、ありがとうございます」
 「そうそう。それでいい」

 真紘はシートベルトを外して、北峰に手を預ける。北峰に引っ張られて、低い車体から外へ出た。
 膝のブランケットを車外できれいに畳み、助手席に残す。その間に北峰は、手にしていたタグのようなものをフロントガラスの内側に張り付けた。
 最後に真紘とブランケットを確認して、ドアを閉めたのだった。

 (あれは、なに?)
 (そういえば、車に乗ったときにも同じようなシールが貼ってあったような……)

 「シーナちゃん、いくよ~」

 北峰の声で思考が邪魔される。呼ばれた声に向きなおれば、ドライブ前と同じ柔らかな茶色の髪を輝かせた北峰が待っていた。




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