90日のシンデレラ
 「あ……お、おはようございます」

 とりあえずの、挨拶を真紘は返した。とりあえずだが、返すことができた。
 でもそこから先が、続かない。昨日のカノジョ宣言されてからこっち、どう対応すればいいのか、まだ真紘は決めかねているのだ。

 再会しただけで朝の決意、今までどおり接するというものなのだが、がきれいさっぱり消えてしまう。そんな真紘に対し、北峰のほうは目を輝かせて、
 「今から連絡しようと思っていたところ。すごいな、以心伝心だ」
 などど真紘と路上で鉢合わせたことに、ひとり感激していた。

 別に真紘は北峰を迎えにきたわけではない。昨日の疑問を解決するために、ここへ立ち寄っただけ。しかし結果としては北峰の言葉どおり、真紘が気を利かせて先回りしていたことになっている。

 (偶然よ! 偶然なの!)
 (偶然なんだけど……でも……)
 (これじゃあまるで、私たちの再会は運命だったって勘違いしてしまいそう……)

 焦ったり戸惑ったりする真紘のことなど構わずに、北峰はさわやかな笑みを浮かべる。それはまさに「会いたい人に会えて嬉しい」という笑みだ。
 ごく自然に北峰は歩み寄り、「じゃあ、いくよ。こっちだ」と真紘の手をとった。

 「え? なんで、手?」

 手を取られて、真紘は赤面する。破顔したイケメンの顔だけでも心臓がキュンとするのに、昨日のエスコートしてくれた手が今日もまた真紘の手を包み込むなんて……

 しっかりと包むその手は温かい。梅雨の晴れ間であるとしても蒸し暑い季節であれば、敢えて手をつなぐことは憚れるもの。でも北峰は気にしていない。その証拠に、こう真紘へ問いかけた。

 「嫌?」

< 131 / 268 >

この作品をシェア

pagetop