90日のシンデレラ
 商品を隠しているのはもったいない気がするが、そこから真紘は推測する。そう、こういうふうに……

 (これって、やっぱり限られたお客さんしか相手にしない店って、こと?)
 (もしそうなら、とっても敷居が高すぎる)
 (私、ここにいてもいいのかしら?)

 北峰と付き合えば、今みたいな田舎の真紘の生活からかけ離れたものばかりに遭遇してしまう。
 その北峰は、オーナーテーラーと和気あいあいと、これから仕立てるスーツの話で盛り上がっている。

 (プレゼン用に服を買うでなく、作るんだ。新しく買うってだけでも、すごいのに)
 (勝負服ということなんだろうけど)
 (オシャレ男子、ここでも極まるって感じ)

 耳に入る会話から、北峰はわざわざヨーロッパから生地を取り寄せたらしい。オーナーはオーナーで、最上級の生地でフルオーダーをもらい腕が鳴っている。やっと準備が整って、このあと、ついに縫製に入るのだ。どちらも望みが叶って、ウィンーウィンのほくほく顔である。
 そんな服に熱心なふたりがいるが、北峰は真紘のことを忘れてはいなかった。

 「真紘、女性物は隣の部屋にあるから、みておいでよ」
 「え?」
 
 なんと、この店は男性物だけでなく女性物も扱っていた。
 店の雰囲気からしてここには男性物しかないと真紘は思い込んでいたが、違うらしい。この店は真紘が思っていたのよりもずっと広そうだ。

 (そういえば、カフェを併設しているって、いっていなかった?)

 丸い目をした真紘に向って、北峰はこうもいう。

 「まだまだ時間がかかるから、ゆっくりみてて。そうだな~、あとで真紘が一番素敵だと思う服を教えてよ。俺もみてみたい」


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