90日のシンデレラ
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 小さな空間が都会の一画でぽんと拓けていて、そこは近隣で働く人たちのささやかなの憩いの場となっている。スペースの中央には一本の背の高い木が植えられて、それを背凭れのないベンチがぐるりと丸く囲み、さらにその外側を新旧のビルが囲い込む。坪庭を思わせるような造りだ。

 そんな都会のオアシスを、瑠樹はテーラー併設の三階ベランダのカフェ席から見下ろしていた。オアシスは小さな空間だけど、上から見下ろせば不思議な優越感が湧いてくる。さながら歴代の王がこぞって自分の城を築くのは、そこから城下町を眺めてこんな気分に浸るためなのだろうなと思う。
 手元には、程よく冷えたレモン水。からりと氷が涼しげな音を立てて崩れた。まだまだ真紘は現れそうにない。
 特に不機嫌になるわけでもなく、のんびりと瑠樹は真紘のことを待っていた。

 真紘に「時間がかかるから」と瑠樹はいったのだが、オーダーのパターンはとっくに決まっているし、本日は生地の実物を確かめるだけあった。時間など大してかからない。
 でも敢えて「時間がかかるから」といったのは、真紘に遠慮をさせない配慮から。それ以外にも、瑠樹にはもうひとつ興味があった。
 はてさて真紘はこの店で、一体どの服を選ぶのだろうか?
 本当に真紘は色々な意味で自分の期待を裏切ってくれる女だと、瑠樹は思う。真紘を待ちながら、今までのことを振り返っていた。




 (最初はカマリの指摘だったな。本社に忖度しないレポートがきたわよって)

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