90日のシンデレラ
 しかし、面談して子会社間の連携に綻びあるとわかれば話は変わる。エラーは小さい芽のうちに対応しておかねばならない。のちの重大な過失に繋がる前に回避だ。
 折しも父から業務改善コンペの取り纏めをしろといわれていた。「真紘」の案件は内容的にそれに重複させることができるとわかり、瑠樹は椎名真紘(まさひろ)を呼び出すことにしたのだった。

 これが、真紘の本社出向の裏側である。
 そして本社権限を発動させて、グダグダいう子会社から真紘を本社へ向かわせる。研修ガイダンスにて、瑠樹は鎌田女史に教えられる。「あの人が、椎名さんよ」と。
 瑠樹の目に映った真紘の第一印象は……

 (あれ? 椎名は女だったのか?)
 (おかしいと思ってレポートをみれば、やはり真紘(まさひろ)とあって、あのときは大いに悩んだな~)
 (カマリのヤツ、可笑しそうに「まひろ」って読むのよって、あとでいいやがって!)

 そう研修初日のガイダンスで、真紘は瑠樹と一瞬目が合って焦った。でもこれは、偶然ではなくて故意。
 瑠樹と一瞬目が合った真紘はすぐに視線を外し平穏を願ったが、事態はそうならなかった。瑠樹にしてみれば「こいつがあの椎名なんだ」と、しっかり真紘の姿を目に焼き付けていたのだった。

 (女であることがわかって、あらためてよくみれば、あのネイビーのリクルートスーツだ。インターンの学生かと思った)
 (ルックスだけでなく、態度もそわそわし過ぎている。ガチで緊張しているのがわかった)
 (あんな小心者が、本当にあのレポートを書いたのか?)

 レポート内容から滲み出る強気の姿勢と、目の前でおどおどする女子社員のギャップに瑠樹は訝しんだ。

 (レポート作成者名と実際の作成者は、違うんじゃないのか?)
 (とにかく、あの動揺の仕方、尋常じゃない。あれは本人ではなく、やはり代理人が座っているからなのか?)
 (まぁいい、後日のローンチで呼び出せば、本物か偽物かすぐにわかることだ)

 果たしてローンチ当日になり、鎌田女史に連れられてやってきた椎名は、あのガイダンスの席でびくびくしていた孫会社の女子社員であった。

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