90日のシンデレラ
 ガチガチに緊張しているのは、初日のガイダンスのときと全く変わりない。鎌田女史に連れられて自分の部屋にやってきた真紘のことを、大村らとディスカッションしながら盗み見して瑠樹は思う。

 (昨日もそうだったが、どうもあのレポートとはイメージが違うな)
 (でも、ここにきたということは、この椎名が書いたことに間違いないはずで……)
 (あれか? 本社だから、わざと擬態しているのか?)

 事前予想と実体が、ここでも大きく違う。
 しかもこの椎名の滞在先は、前々から自分が目をつけていた物件に割り当てられているという。瑠樹としては、腑に落ちないことばかりだ。

 (俺のセカンドハウスとでもいうべきあの社宅に、出向者が入るだと)
 (しかもそいつは、あのレポートの作成者じゃないか!)
 (なんだか……釈然としない)

 真紘の借り上げ社宅であるグラン・ソル・フルールは、交通の便がいいだけでなく、本社ビルから適度に離れていて部屋数も多い。
 真紘が入る前に入居していた夫婦は、ふたりとも瑠樹の後輩であった。そのよしみでまだ家財で埋まっていない玄関横の部屋を、瑠樹は借りることができた。もちろん、新婚夫婦のプライベートを侵害しない範囲内で。また借用期限も切られいて、プロジェクト進行に時間的な余裕がないときに限るというものであった。瑠樹は、節度ある間借りをしていたのである。

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