90日のシンデレラ
 (しかし本社との連携が薄いと指摘してあるだけあって、俺が創業家一族だと本当に知らなかったな)
 (田舎の会社とはいえ、役員名を知らないなんて、ある意味、整合性がある)
 (俺の正体を知らないほうが都合がいい。変に恩を着せられても面倒だし)

 間借りといっても瑠樹としては「ルームメイト」として行動するつもりであった。最初に名前を「まひろ」でなく「まさひろ」と思い込んでいたから、その印象のせいで真紘のことを独身女性だとなかなか認識できなかったのである。

 最初のエレベーター内での交渉が奇抜だったせいか、その後の真紘は一切、自分に近づいてこない。ある意味、瑠樹にすれば手間が省けたのだった。





 「お待たせしました、準備が整いましたのでお食事をお持ちいたします」

 スタッフの声で瑠樹は思考の海から引き揚げられた。声に振り向けば、レディース部門のスタッフの後ろに、もじもじとした真紘がいる。
 いま真紘が纏っているのは、赤色のフレアワンピースだ。入店時とは違う華やかな衣装である。ワンピースの広い襟からみえる真紘の肌は、髪色の黒色とワンピースの赤色の対比のせいでとても白くみえた。
 真紘の知らないうちに、事前にスタッフへ瑠樹はこうお願いしてあった。彼女が選ぶ一番素敵だと思う服に、着替えてもらってと。
 そしてここに、服を着替えた真紘がいる。赤色のスクウェアネックのワンピースの真紘は、紺色のリクルートスーツのときと別人のような明るい顔色の女子になっていた。

 (へぇ~、いいじゃん!)
 (思ったとおり、冷たい色よりも温かい色のほうが似合うじゃん!)

 またもや瑠樹の想像の上をいく真紘が、今度はいい意味で、現れたのだった。
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