90日のシンデレラ
 こんなに夜ご飯が早いと夜食が必要となりそう。そんな心配が真紘の頭に浮かび上がってきたが、それ以外にも気になることがある。
 カレシカノジョとなって、今日は初デートをした。特別な日といって、瑠樹は真紘のことを大切に扱ってくれた。そして今、その特別な日の夜がやってこようとしている。
 高校生のカップルでも今時分、それだけでは終わらないだろう。ましてや瑠樹と真紘はいい年をした大人である。
 ボンゴレの感動が薄れていくにつれて真紘は、一度は思考の奥底に沈め込んだことを思い出したのである。

 (やっぱり、あれ、よね)

 この部屋に戻る途中で『夜』という単語を強く意識して、真紘は赤面した。

 (あのときは晩御飯だと、軽く笑われて終わったけど……)
 (もう、そういうわけにはいかないわよね)

 今日一日、こんなにチヤホヤされては、嫌とはいえない。
 真紘自身は嫌ではない。嫌ではないのだが、どちらかというと自分の体に自信がない。はたして、このイケメンオシャレ男子の瑠樹を、自分は満足させることができるのだろうか?
 ちらりとシンクの前で隣に立つ瑠樹を盗み見すれば、彼はニコニコしている。

 そして、こんな想像も真紘はしてしまう。
 何でもできて社でもプライベートでもモテモテ男と、ひと晩をともにする。
 翌朝、瑠樹は瑠樹でパン、そう瑠樹が買ってきて真紘が冷凍保存してある大量のパンだ、を食べて涼しい顔をして出ていく。
 真紘と過ごしたその夜が瑠樹の思っていたものと違うとしても、彼はそれをおくびにも出さない。いつも社でみせているポーカーフェイスのままで、この社宅を去るのだ。
 そして、真紘とはそれきりになる。

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