90日のシンデレラ
 触れる唇は、手のひらと同じで温かい。真紘の頬を撫でる手は、真紘の顔が逃げないように唇を外さないようにと添えられている。

 チュッと軽く触れて、瑠樹は距離を取る。少し離れた位置から真紘の顔をしみじみと見つめる。
 真紘としては、予告なしのキスにきょとんとした表情をするのみだ。キスされたのだとわかっていても、それがつかの間の唇の接触であれば、夢幻のようで現実感が伴わない。

 「ホント、真紘は面白い」

 こんな不意打ちのキスで頭が真っ白になった真紘のことを、瑠樹はやはり「面白い」という。その口角の上がり方は、手料理のボンゴレを真紘が褒めたときと同じ形だ。ひどく満足した瑠樹がいる。

 「…………」

 からかわれているとわかっても、真紘は次の行動がとれない。大きく目を見開いて、その場に立ち尽くすのみ。

 「面白くって、可愛くって、だからもう一度……」

 だからもう一度、その次にくるセリフ何なのか?

 一度小さくなった瑠樹の顔がまた大きくなっていた。心なしか真紘の頬にある瑠樹の手に力が入っている。
 ああ、またキスするんだと、真紘は目を閉じた。



 二回目のくちづけは、一回目よりも長い。しっかり唇を押し付けて、不意に外れたかと思えば今度は左右にこすり合わせる。
 目を閉じていれば視覚情報がすべて消えて、唇の感触を強く感じることができる。温かくて、柔らかくて、少し湿り気があって……
 頬の手は、依然真紘の逃げ道を塞いでいる。その手は退路を塞ぐだけでなく、次の実力行使に出た。

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