90日のシンデレラ
 (これってさぁ~、実はエントリー結果は木曜に出ていたんじゃないの?)
 (瑠樹さんは海外出張に出ていって、この送信日には日本にいないんだもん)
 (事務手続きの兼ね合いでタイムラグがあるにしても、落とすコンペ案件に添削なんてしないもんじゃない?)

 そんな結論にたどり着けば、真紘の案件が選考会を通過しているのを知っていても、瑠樹はわざと伏せていたとわかる。

 (実は、依怙贔屓されていた?)
 (まさかね……)
 (でもそのまさかだと、ちょっと良心が咎めるなぁ~)

 予選通過しても、純粋に喜べない複雑な気分の真紘がいる。
 でも、選考会を突破した事実は、事実なのだ。ここは真面目に次に取り掛かるのみである。

 (業改はレポート提出でひと休みだから、今のうちに企画のほうを……)

 企画開発研修は、来週から企画商品の試作作成プロセスの検証に入る。実際に企画商品が量産可能なのか、可能であればどう製造発注をするのか、そのコストの見積もり方云々という現場レベルの研修である。このあたりは、孫会社でも工場に出入りしている真紘には馴染みのある分野である。

 (こんな現場指揮の裏側なんて、社ではみせてくれなかったし)
 (ちょっと面白そう)

 瑠樹がいない間、寂しいといえば寂しいものがあるが、仕事に集中できるといえば集中できる。そう、大村の情熱が感染したかのような真紘がいる。
 メリハリをつけて、仕事をする。今回の本社出向に選ばれなかったら、きっと真紘は田舎の会社で「なんとなく」仕事をしているままだろう。そのことにも、ふと真紘は気がついた。
 自分が少しずつ変わっていっている。物事に対して、前向きな方向へ。
 嫌々だった本社行きが、瑠樹によって認識が変えられたことを真紘は感じるのだった。
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