90日のシンデレラ
 仰向けでなく横向きで目が覚めたのはいいものの、なぜかその姿勢から身動きが取れない。
 寝返りを打とうとしてできないのなら、いっそのこと起き上がってみてはと思う。片肘をついて横向きのまま上半身を起そうとしたら、これもできない。
 まるで何かかに押さえつけられているようで…………

 (あれ?)
 (私、どうしたの?)

 完全に覚醒していない頭では、この不思議な現象を分析するのは難しい。
 半分眠りの世界の住人だったので、すぐにはわからなかったが、ようやくこれにも気がついた。首元に微かな空気の流れがある、と。
 それは規則正しくて、湿り気があって、温かい。まるで、呼吸のようなもの。

 (待って!)

 一度に真紘は覚醒した。首元の空気の流れが吐息だと意識してしまえば、嫌がうえでも目が覚めてしまう。

 (ここにいるのは……私だけのはず)

 ブランケットの中でしっかり力を入れて、ぐるんと体をひねった。真紘はその正体を突き止めるべく、行動した。
 少し上体を起こして、斜め後ろをみる。そうして目に入ったのは、黒い塊。真紘のブランケットをすっぽりと被って、なだらかな山となっている。
 ブランケットの山脈はベッドの端ギリギリまで続いていた。真紘の背よりもずっと大きい山。ほのかに熱を帯びている。
 さらに、すーすーと平和な寝息を立ててもいた。

 (え?)

 部屋が暗いから、細部はよくみえない。見えないけれど、誰かがここにいる。どおりでベッドが窮屈なわけだ。
 その誰かは腕を伸ばし、しっかりと真紘の腰回りを包み込んでいた。

 (え?)
 (ちょっと待って!)
 (帰国は木曜日っていっていなかった?)

 自分ひとりだけのはずのベッドに、つい先日カレシになったばかりの瑠樹が潜り込んでいたのだった。




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