90日のシンデレラ
「嘘。ひとつ早いフライトにキャンセルが出たから、変更してもらった。ちゃんと案件は片づけてきたよ。ひとりで出張にいくのは融通が利いていい」
「もう、やめてください。そういうのは……」
「そういうのは?」
「そういうのは……心臓に悪いです」
夜の高速道路ドライブのときと同じように、からかわれているとわかれば真紘は体の力が抜けた。
本社社員が、カノジョのひとりやふたりのことで、仕事をほったらかしにされてはたまらない。きちんと瑠樹は海外業務を遂行してきたことが本当で、真紘は安堵できた。
「心臓に悪いか。俺はカノジョに会えなくて、心臓が苦しかった」
からかいが終わって、次に頭の上からそうささやかれる。
俺はカノジョに会えなくて、心臓が苦しかった――それもやめてほしい、このセリフこそが先のものよりもずっと真紘の心臓に悪い。
もぞもぞと真紘が体を動かすと、瑠樹はバックハグの腕を緩める。緩まった腕の中で、真紘はくるりと体の向きを変えた。
その弾みで、するりとブランケットの上のスマートフォンがベッド下へ滑り落ちる。幸いにも、それはベッドに入る前に脱ぎ捨てた服の重なりの上に落ち、不躾な雑音でふたりの邪魔をすることはなかった。
暗闇の中で、真紘は瑠樹と向かい合う。といってもブランケットの中で、真紘は瑠樹の胸元に顔を寄せている形だが。
「そういうのも、やめてください」
下から見上げるような姿勢で、真紘がお願いする。
上から見下ろす瑠樹は、これまた面白がって真紘の頭頂に軽くキスをする。唇の感触に、真紘の背筋をざわつくものが走っていった。
「どうして?」
「だって、嬉しけど……その、やっぱり、恥ずかしい……から」
「もう、やめてください。そういうのは……」
「そういうのは?」
「そういうのは……心臓に悪いです」
夜の高速道路ドライブのときと同じように、からかわれているとわかれば真紘は体の力が抜けた。
本社社員が、カノジョのひとりやふたりのことで、仕事をほったらかしにされてはたまらない。きちんと瑠樹は海外業務を遂行してきたことが本当で、真紘は安堵できた。
「心臓に悪いか。俺はカノジョに会えなくて、心臓が苦しかった」
からかいが終わって、次に頭の上からそうささやかれる。
俺はカノジョに会えなくて、心臓が苦しかった――それもやめてほしい、このセリフこそが先のものよりもずっと真紘の心臓に悪い。
もぞもぞと真紘が体を動かすと、瑠樹はバックハグの腕を緩める。緩まった腕の中で、真紘はくるりと体の向きを変えた。
その弾みで、するりとブランケットの上のスマートフォンがベッド下へ滑り落ちる。幸いにも、それはベッドに入る前に脱ぎ捨てた服の重なりの上に落ち、不躾な雑音でふたりの邪魔をすることはなかった。
暗闇の中で、真紘は瑠樹と向かい合う。といってもブランケットの中で、真紘は瑠樹の胸元に顔を寄せている形だが。
「そういうのも、やめてください」
下から見上げるような姿勢で、真紘がお願いする。
上から見下ろす瑠樹は、これまた面白がって真紘の頭頂に軽くキスをする。唇の感触に、真紘の背筋をざわつくものが走っていった。
「どうして?」
「だって、嬉しけど……その、やっぱり、恥ずかしい……から」