90日のシンデレラ
 実際、レンタル家具の料金だって会社持ちだ。真紘が負担しているのは、光熱費と通信費ぐらい。それも給料から天引きされていれば、支払いの手間だって省けている。
 何もかも至れり尽くせりの、社宅であった。

 予定外なのは瑠樹のことになるのだが、もちろん、そんなこと相談してはいけない。
 実は瑠樹さんが間借りを申し込んできました、今ではすっかりあの社宅に入り浸っていまして……なんて、絶対に誰にもいえない。
 ここでも真紘は素知らぬ顔をして、「大丈夫」と答えるのみである。

 「そうでしたか、でも何かあれば総務のほうにお知らせください。研修もあと三週間ですね、あっという間ね、残りの研修も頑張ってください」

 そう告げて、鎌田女史は別の研修者のところへ向かう。彼女は真紘以外にも何人か担当しているようだ。向かった先で声掛けをして、雑談をして、また次へと移動していく。
 そんな本社社員の鎌田女史の姿を認めて、真紘は再び資料へ視線を戻した。



 本日の研修を終えて、真紘は帰路につく。週半ばの今日は、食料品の買い出しをしなくてはならない。
 瑠樹のスケジュールは本人から知らされていても、真紘の部屋への訪問は不規則だ。それに瑠樹が訪れるときは大抵手土産を持ってくるから、瑠樹の分を予め用意しなくてもいい。普段買いの食料品は真紘ひとり分だけでいいのだ。
 それは、この東京生活が生活がはじまったときから変わっていないこと。
 しかし今日はちょっと様子が異なる。スーパーでセールになった総菜を物色する間も、真紘は鎌田女史のひと言「研修もあと三週間ですね」が頭の中でチラついて仕方がなかった。

 (そっかぁ~、気がつけばコンペも四次選考結果がそろそろ出る頃だし、研修だってもうまとめの段階に入りかけているし)
 (あと三週間なんだ)
 (やっと東京に慣れて、楽しくなりはじめたんだけどなぁ~)

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