90日のシンデレラ
 ビル中層階に位置するそのカフェからは、先のブルーツリーがよくみえた。
 全面窓向こう側のツリーは、堂々と枝を広げ見事なもの。ビルの谷間で「思ったほど大きくなかった」、なんてことはない。ここでも、見方によって印象が変わる。
 ガラス窓越しだけど、大木の枝が風にそよいでいるのがよくわかる。葉の揺れる細かな様子までわかれば、もうツリーハウスの中にいるかのよう。そうここは、ブルーツリーを一番楽しむことのできるカフェであった。

 もう夏といっていい七月中旬であれば、午前中でも陽射しは力強い。でもツリーの葉と枝のおかげで、このカフェ席には程よい木漏れ日が降り注いでいた。
 モーニングプレートをオーダーし、届くまでの間、窓下の遠くのパティオが少しずつにぎやかになっていくのを眺める。

 なんて穏やかな休日の朝だろう。出勤時間など気にせず、のんびりと空中のカフェで朝食をいただいている。隣にいるのは愛しい人で、幸せな朝の風景だ。不意打ちで起こされてここまでやってきたのだが、もうそんなこと、どうでもよくなっていた。

 「予定が変わったって、何があったのですか?」

 スケジュール変更を今さらながらに、真紘は尋ねた。

 「上の兄との食事が変更になった」
 「上のお兄さん?」
 「俺、三男なんだ。『兄』といえば若そうにきこえるけど、暁紀(あき)兄とは結構年が離れていて、高校生の息子がいるよ」
 「え!」

 なんと瑠樹には高校生の甥っ子がいた! それに、真紘は瑠樹の家族構成なんて全く知らなかった。
 甥っ子ときいて、なんか変な感じがする。瑠樹の場合、その甥っ子はもっと小さな子供のイメージでしかない。

 (瑠樹さんって、三十半ば、ぐらいよね)
 (高校生の甥っ子がいるということは、お兄さんって四十半ばぐらいかしら?)

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