90日のシンデレラ
 異変はわかりにくいけれど、それはあちこちで現れだした。
 次に真紘が気がついたのは、木曜日の夕方。無事、研修まとめの方針が立って、関連資料をプリントアウトして帰宅したときだった。

 (あれ?)
 (靴がない?)
 (あ、そっか、服に合わせて靴も変える人だったよ、瑠樹さんは)

 この間まで三和土に出ていた靴が消えていた。真紘は土曜日の午前のことを思い出す。
 真紘自身はこの二日ほどは企画開発研修に集中していたから、借り上げ社宅内の細かい配置は覚えていない。自分の所有物でなければ、物の配置などそんなものだろう。
 春物を持って帰ったから、夏のものを運び込んでいるのかも?
 単純な衣替え作業を想像する。何気に下駄箱を開けると、瑠樹の靴はあった。

 (…………)

 瑠樹の靴はあるが、その量は半分に減っていた。行儀よく並んでいたのに、ぽつりぽつりと抜き取られた黒い空間がある。

 ここに新しい夏の靴を入れるのだと判断し、整理整頓できている瑠樹に感心する。
 靴がそうならクローゼットはと、真紘は玄関横の部屋を覗いてみた。
 扉を開けると、ものがひとつも置かれていないがらんとしたフローリングが目に入る。折り畳まれた段ボールとヨガマット、ボストンバッグと思っていた寝袋はない。これらが撤去された理由を、真紘は知っている。
 きれいに閉じてあるクローゼットの扉に手をかける。そこには、三分の一にまで減った瑠樹の服がかかっていた。

 (靴と一緒で、こっちも減っている)
 (着替えたあとに、持って帰ったのかしら?)

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