90日のシンデレラ
 本日は木曜日で、瑠樹の出社日である。マダム山形の情報によると。
 瑠樹はこまめに服を替える人だ。外勤のあとに内勤が入っているときは、一度スーツを脱いでラフなオフィスカジュアルになる。さらに、着替えるときは体もきれいにする人でもあった。

 真紘は洗面所へ向かう。なんか胸騒ぎがしたから。
 ここに瑠樹がきて、服を着替えたのなら、必ずシャワーを浴びる。服を着替えていないのなら……
 はたして、覗き込んだ洗濯機にはそれらしきものはない。瑠樹が使ったと思われるバスタオルなどなかった。

 「…………」

 ということは、瑠樹はここにはきたが服は着替えなかったということになる。

 真紘の胸騒ぎは治まらない。
 その足で、真紘はリビングダイニングへ向かう。明かりをつけて見渡せば、朝と同じ風景だ。
 さらに冷蔵庫も確認する。ここも同じで、中身に変化はない。

 「…………」

 瑠樹は、ここにやってきた。ここにやってきたが、服と靴を持ち出しただけらしい。
 それ以外は何ひとつ、彼は痕跡を残していなかった。

 ――しばらく忙しくなるから、あまり会えない
 ――できるだけ時間を作ってくるから、それまでの間、少し我慢してくれる?

 土曜日の瑠樹の言葉を思い出す。

 (これって、どういうこと?)
 (瑠樹さんは常に忙しいから、私はてっきり、いつもの仕事の延長で考えていたのだけど……)
 (違うってこと?)

 服がなくなっているということは、ここではもう着替えることはないということ。そんな結論が真紘の中に浮かび上がる。
 もうここで着替えることはないから、瑠樹は服や靴を撤去した。

 (いや、いや、いや……そうじゃなくて……)
 (もう春物は不要だからって、いっていなかった?)
 (そうよ、空いたところに夏物を入れる予定で……)

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