90日のシンデレラ
 これとは、先の同僚のいう『金を出してやったんだから、退職なんて認めない』である。下手に会社持ちで研修なんかにいってしまえば、恩を着せられてしまい、簡単に辞職できなくなる。

 しまった! と真紘は思う。
 同時に、主任は逃げたのかもしれないと、意地悪く考えてもしまう。

 遅々として、仕事は捗らない。田舎の小さな会社であれば、もらえる給料なんて大したことはない。東京本社での待遇を知ってしまった真紘にすれは、本社子会社の違いのみならず、世間一般と照らし合わせてもあの業務量と給料は割に合わない。あれでは誰だって転職したくなる。
 でも田舎だからこそ働く場所が限られていて、皆が皆、妥協して勤めている。
 そのあたりのことをみて、社は待遇改善に熱心でないのだろう。言葉悪くいえば、『安い給料でも辞める人はいない』と考えている。

 そういえば、課長に提出した提案書も、何の反応もない。会議で廃案となってしまったのだろうか、だから結果を知らせないのか。
 でも疑心暗鬼になった真紘は、こうとも思う。もともと会議にかける気はなかったのかもしれないと。

 部下が自主的に提出してきたものを無下に扱えば、今後の仕事に差し障る。とりあえず相手にしておいて、そのまま放置していてもおかしくない。なまじルーズな性格で、それがもとで主任を業務過多に追い込み辞職させてしまった課長なのだから。

 この推測には、ひどく納得できるものがある。
 そして、次は自分がその主任の立場になるかもしれない。そう思うと、背筋がさらに寒くなった。

 (えー、どうしよう?)
 (気のせいであってほしい)
 (もしそうなら、体を壊すぐらいのことがないと、あの会社辞められないじゃない!)

 「瑠樹さん、私、どうすればいいの?」

 思わず真紘は、空気のように消えていった瑠樹の名をつぶやいてしまった。
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