90日のシンデレラ
「お客さん?」
――そうよ、東京本社の方。あ、ちょっと待って、ご本人とかわるわね。
また、え? と思う。
ガタガタと不自然な音がして、母の動揺がスマートフォン越しにわかる。平静を繕っていても、母の声だって普段より高い。
母だけでなく、真紘だって動揺していた。目の前に瑠樹と一緒にドライブしたクーペとよく似た車があるだけでなく、東京本社という単語が耳に入って心臓がどきりとする。
そして、今からその持ち主と会話するとなれば……
――もしもし、真紘?
母のスマートフォンから男性の声がきこえてきた。この声に、真紘の心臓が跳ねあがる。
端末越しにきく声は、馴染みのない男性のもの。はじめてきくような声にも思われた。
瑠樹とは極秘でお付き合いしていた。直接会って話すからと連絡用のアカウントを交換していない。電話も同様で一度も真紘は彼とスマートフォンで話をしたことがなかった。だから今きくこの声が瑠樹のものなのか、少し自信がない。
でも自分に真紘という呼びかけをする男性は、瑠樹しかしない。
そう、瑠樹しかいないのだ。
もう二度と会うことはないと思っていたから、今のこの声が信じられない。
幻聴かもしれない、目の前のクーペだって幻覚なのでは?
――もしもし、真紘。きこえてる?
真紘が返事をしないから、男性の声が訝しげなものとなる。
はっと、真紘は我に返る。幻聴でも幻覚でもなかった。
ぐっと息をのみ込んで、心を落ち着かせる。少しの間を取ってから、
「はい、真紘です。瑠樹さんですか?」
と、約二か月ぶりに瑠樹と会話したのだった。
――真紘、いまどこにいる?
「家の前です」
――職場じゃないの?
「いま帰ってきたところで……」
――じゃあ、ちょうどいい。そこにいて。
「え?」
それきりスマートフォンからは、雑多な音と声が断片的に流れてきた。
――そうよ、東京本社の方。あ、ちょっと待って、ご本人とかわるわね。
また、え? と思う。
ガタガタと不自然な音がして、母の動揺がスマートフォン越しにわかる。平静を繕っていても、母の声だって普段より高い。
母だけでなく、真紘だって動揺していた。目の前に瑠樹と一緒にドライブしたクーペとよく似た車があるだけでなく、東京本社という単語が耳に入って心臓がどきりとする。
そして、今からその持ち主と会話するとなれば……
――もしもし、真紘?
母のスマートフォンから男性の声がきこえてきた。この声に、真紘の心臓が跳ねあがる。
端末越しにきく声は、馴染みのない男性のもの。はじめてきくような声にも思われた。
瑠樹とは極秘でお付き合いしていた。直接会って話すからと連絡用のアカウントを交換していない。電話も同様で一度も真紘は彼とスマートフォンで話をしたことがなかった。だから今きくこの声が瑠樹のものなのか、少し自信がない。
でも自分に真紘という呼びかけをする男性は、瑠樹しかしない。
そう、瑠樹しかいないのだ。
もう二度と会うことはないと思っていたから、今のこの声が信じられない。
幻聴かもしれない、目の前のクーペだって幻覚なのでは?
――もしもし、真紘。きこえてる?
真紘が返事をしないから、男性の声が訝しげなものとなる。
はっと、真紘は我に返る。幻聴でも幻覚でもなかった。
ぐっと息をのみ込んで、心を落ち着かせる。少しの間を取ってから、
「はい、真紘です。瑠樹さんですか?」
と、約二か月ぶりに瑠樹と会話したのだった。
――真紘、いまどこにいる?
「家の前です」
――職場じゃないの?
「いま帰ってきたところで……」
――じゃあ、ちょうどいい。そこにいて。
「え?」
それきりスマートフォンからは、雑多な音と声が断片的に流れてきた。