90日のシンデレラ
 瑠樹とのはじまりは、彼の間借り申し入れだった。それは、エレベーター内でのことだった。あのときは真紘が「うん」というまで、彼は真紘を解放しなかった。根負けして真紘は瑠樹の間借りのことを認めたのだった。
 今は、あのときのエレベーターボックスがクーペに変わっているだけなのではないか?
 真紘の身柄は、瑠樹の意志ひとつにかかっている。同じ状況下に置かれていることに、気が付いた。

 「あの~、確認したいのですが……」

 おそるおそる真紘は切り出した。もう高速道路に乗ってしまったから、下りることはできない。このまま瑠樹と同乗するのなら、この先のことを、もっと詳しいあれこれを知る権利が真紘にはあるはずだ。

 「どうぞ」

 涼やかに瑠樹はいう。その声はごくごく普通。特に嫌がっている様子はない。これも、付き合っていたときと何ひとつ変わらない瑠樹である。真紘は錯覚してしまいそうだ。
 だからまずはこう、訊いた。

 「私って、まだ瑠樹さんカノジョなんですか?」
 「まだ?」
 瑠樹の声が裏返った。

 (!)
 (あれ? 変なこと、いっちゃった?)
 (でも、ずっと無視していたじゃない)

 「心外だな、そういうふうにいわれるのは」
 少しふてくれされたような瑠樹の声。
 そんなふうにきこえるのは気のせいか?
 でも真紘だって、確信が持てないから、そう訊くしかなくて……

 「だって、何もいってくれなかったじゃないですか! 荷物はなくなるし、社で会っても知らん顔だし、研修最終日だって……」
 真紘が突っ込むと、思い当たることがあるのか
 「そ、それは……」
 と、瑠樹がいい淀んだ。あの瑠樹が、だ。

< 250 / 268 >

この作品をシェア

pagetop