90日のシンデレラ
 (あれ?)
 (なんか、困っている?)

 コホンと小さく咳をして、瑠樹は瑠樹でこう返してきた。
 「俺は、しばらく忙しくなるから、あまり会えないって、いったあったはずだけど」
 「え?」

 真紘はモーニングのあとの瑠樹の言葉を思い出した。
 あれは、忘れはしない。なぜなら、真紘がきいた最後の瑠樹のセリフだからだ。

 ――真紘、しばらく忙しくなるから、あまり会えない。
 ――できるだけ時間を作ってくるから、それまでの間、少し我慢してくれる?

 「あれって、お別れのセリフだと、ずっとそう思っていたんだけど……違うの?」
 「そのまんまの、意味だけど」
 「え? そのまんまの意味?」
 「そう、そのまんま。とりあえず、ここまでくれば大丈夫かな? 腹が減ったから何か食べよう」

 腹が減ったから何か食べよう――そういわれると真紘も空腹に気がついた。
 勤務時間が終わってからこっち、何も食していない。とんでもないことを課長から宣告されて、それどころではなかったのだ。

 でも今は、瑠樹が隣にいて、彼の運転する車に乗っている。それに自分は何か誤解もしていたようでもある。
 まだはっきりとしたことはわかっていないが、とにかく隣に瑠樹がいる。
 何といっても、隣に瑠樹がいるのだ。もうそれだけで真紘は安堵できた。ゆえに空腹を感じるのである。

 クーペは本線からサービスエリアへ入る。地名をみれば隣県のもの。ここまでくれば大丈夫、真紘もそう思えたのだった。




 そうして、なぜだかふたりはうどんを食べている。地方高速道路といえども最近はそれなりに観光スポットとなっていて、お洒落な店があるにもかかわらず、にだ。
 食券を買い、セルフサービスで品を受け取り、雑多なフードコートのテーブル席にふたりは向かい合って座っていた。
 間にあるのは湯気の立つうどん。残暑が残る時期だけど、夜の気温や車中のクーラーで冷えた体を温めるための選択である。
 いただきますと手を合わせて、まずはふたりしてうどんを食したのだった。
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