90日のシンデレラ
 †††

 あの日、課長から望まない内示をもらって真紘はブルーになっていた。その嫌さ加減、主任から東京本社出向を命じられたときとは比にならない。
 なす術もなく、しょんぼりとして帰宅すれば、瑠樹がいた。彼は何やら両親と話をし、でもその結論が固まらず、すったもんだしているうちに真紘が戻ってきたという感じであった。

 ――ちょっとあんた、いきなりやってきて娘をくれといわれても、認めるわけないだろ!
 ――真紘からそんなこと、ひと言もきいていないだぞ。
 ――勝手なことは許さん!

 スマートフォンからのこの父のセリフ、まるで結婚挨拶にやってきたカレシに親はとりあえず反対するという昭和ドラマな展開を想像させる。

 寿退社をしたいと思ってしまうくらい内示が嫌なものであれば、怒鳴る父の姿もみっともなくて、「もう面倒だから、このままいくよ」という瑠樹のセリフに、真紘は迷わず従ったのだった。
 そうして、県境を越えたサービスエリアのフードコートで真紘はプロポーズされる。
 邪な考えで寿退社を望んでいた真紘にすれば、渡りに船である。この話に乗れば、もうあの社にいかなくていい。

 でも、一時の感情で人生の一大イベントを決めるのはいかがなものか?

 これも、大丈夫であった。真紘は瑠樹と一緒にいたいと思っていたし、瑠樹だってお付き合いの最初の宣告を守っている。ふたりの間で一番大事なことは、きちんと確認できていた。


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