90日のシンデレラ
 こうして真紘と瑠樹の結婚が決まったのはいいのだが、そのあとのことが面倒くさい。
 真紘の両親については、後日瑠樹の両親が揃って真紘の実家まで挨拶にいった。東京の大企業の会長夫妻に頭を下げられては、真紘父は何もいえない。ただひと言、「真紘をよろしくお願いします」のみだ。

 残りの面倒くさいことは、真紘の勤務先である。
 真紘が東京へ出発した夕方の翌日に、件の社に通達が下りた。それは、真紘の東京本社へ転籍要請と本社から経営コンサルタント派遣の案内であった。
 単に結婚が急に決まったということで真紘は退職してもよかったのだが、地元には真紘の家族がそのまま住んでいる。勤務先から変な矛先が家族に向かないようにと会長夫妻にお願いされて、マダム山形が事態を丸く収めるために孫会社へ向かったのだった。

 変革は周辺から起こるものである。良いものも、悪いものも。
 取引の多い子会社ならいざ知らず、規模の小さい田舎の孫会社のことなど、本社にいる人間なら特に気に留めないだろう。業績が悪くなればグループから外れてもらえばいいだけである。

 一応はグループ企業の一員だからと全社に案内を出した新人教育で、不穏な雰囲気を醸し出しているレポートが返ってきた。そう、主任が確認をせずに出したあの真紘の苦情のレポートである。

 瑠樹は、それがひどく気になってしまった。それは本社へ救済を求めるグループ下位会社の叫びのようにきこえたから。
 これが将来的に大きな禍にならないともいい切れない。瑠樹は瑠樹で『業務改善コンペ』のローンチ前から、子会社やその先の孫会社のこと、グループ全体のネットワークシステムなどをチェックしはじめていたのだった。

 そんなわけで真紘は東京本社に呼ばれたのだが、瑠樹は瑠樹で真紘を指導する傍ら、真紘の出身孫会社を調べた。調べたら、何ともまぁ、昭和価値の社風をもつ平成のブラック企業体質だったのである。

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