90日のシンデレラ
 (ごめんなさい、椎名さん)
 (申し訳ないけど、私は瑠樹さんとだけは結婚したくないの)
 (物事がいい方向にいくことを願っているから!)

 そう、茉莉はあの借り上げマンションのスペアキーを、不承不承、瑠樹に渡したのである。
 茉莉は自分の結婚を守るために真紘を瑠樹の前に捧げ出してしまった。それを、隣を歩く茉莉の上司、マダム山形は知らない。

 瑠樹が本気を出せば、落ちない女子はいない。茉莉はそう思うし、実際、真紘もそうなった。
 ご機嫌な瑠樹をみていれば、椎名さんとうまくいっているんだろうとすぐにわかった。だから茉莉は真紘の担当だけど、あえて彼女のことは放置した。

 研修期間の九十日間は、ふたり仲良く過ごすだろう。問題はその先である。
 真紘が元会社に帰ってしまえば東京と地方で遠距離恋愛がはじまることになる。これはかなり難しい案件だ。
 それをうまくこなして続けていくのか、距離に負けて別れてしまうか、それとも遠距離恋愛がはじまる前に、研修終了と同時に終止符を打つのか、どれもあり得そうなことである。
 ふたりの仲が破綻すれば、また茉莉に瑠樹との結婚話が浮上する。でもこの段階で自分にできることはないので、茉莉は静観するしかない。

 (結局は、暁紀さんの帰国が決め手になったんだよね~)

 研修も終わりに近づいた頃、妻の療養のために長男夫妻が日本へ帰ってきた。
 真紘の研修期間が終わって、ふたりに距離ができることには変わりない。だが瑠樹は暁紀との職務交代によって、東京と地方というだけでなく日本と海外という国際遠距離恋愛に挑むことになった。
 ナイス兄と茉莉は思う。
 これでだけ障害が大きければ、きっと瑠樹は行動に出る! そう茉莉は確信した。

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