リボンと猫耳と魔法使い
常連客に誘拐され、マジックのようなことをされてしまい、好きなようにキスをされるなど悪夢である。感触が夢にしてはリアルだったような気がするが、エリーはいつものように着替え、パン屋「ribbon」へと向かった。

カランコロン、開店時間と同時にベルが鳴り響く。顔を上げたエリーの目の前にいたのはハリーだった。昨日の夢を思い出してしまい、エリーの頬が赤く染まる。

「おはようございます」

ハリーはニコリと笑い、エリーも「お、おはようございます……。いらっしゃいませ」と返す。紳士的な彼が自分勝手なヤンデレなど、あり得ない。

「どうかされたんですか?顔色が少し悪いようですけど」

ハリーが心配そうにジッとエリーの顔を見つめる。エリーは「すみません、実は変な夢を見てしまって」と笑った。

「変な夢、ですか?」

「はい。ハリーさんがヤンデレになってしまって、あたしの耳に猫耳が生えてしまうんです」

変な夢ですよね、とエリーは笑う。ハリーも笑っていた。だが、その笑みは普段のものではない。どこか仄暗い闇を感じるものだった。

「正夢になったらどうします?」

そう訊ねるハリーのかばんからは、細長い木の枝のようなものが出ていた。
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