誰か僕に気がついて
沙知は養護施設の先生になった

「お兄ちゃん、
淋しかったんだよね

お兄ちゃんは昔から
優しかったもんね

沙知、来年はカウンセラーの
資格も挑戦して
お兄ちゃんみたいな
弱虫の子供を
いっぱい助けてあげるんだ」

それぞれの目が輝いて見えた

金を求めるだけじゃ
しあわせにはなれない

家族の絆こそが
かけがえのない財産だ

僕はそう確信した

あんなに
憎かった母さんは
すっかり変わった

時折、涙ぐんで
僕を見つめる

仕事を辞め
ボランティアに
明け暮れている

化粧もしなくなった

いつも笑っている

母さんの笑顔は
何にも勝る
僕のエネルギーになった

「ご飯は手作りがいちばん!」
そう言いながら
僕に毎日でかいおにぎりを
作ってくれる

最高にうまいおにぎりだ


「あんたはね
素直じゃないからダメなの!

意地をはるのはやめなさい!」

いつも遠慮がちだった
ばあちゃんが
母さんをよく叱るようになった

でもなぜか
ふたりとも仲良くなった

ふたりのやりとりを見てると
僕はたまらなくうれしい

家族が喜ぶために
何をしたらいいんだろう
何かしてあげたい

そんなことを
みんなが少しずつ
考えるようになった

ようやく愛というものが
芽生えてきた


進太とも久しぶりに会った

久しぶりに懐かしい学校帰りの
堤防を肩を並べて歩いた

「おまえさあ、かっこつけて
死のうとでも思ったのか?

どうせなら、マジかっこいい
ビッグなアーテーィストになれよ!
そうすりゃ、あの朝倉も惚れるぞ

でかいホールでさ、
コンサートしてさ

キャ~!達也~!なんて
叫ばれたら最高だぞ!」

朝倉・・と言われてドキッとした

「それからついでにもうひとつ・・
有名になったら、オレを心配させた
罪滅ぼしに
ファーストクラスで海外旅行に
連れて行けよ!
いいか?忘れるなよ」

進太は目に涙をいっぱいためて
思い切り笑った

小さい時から
こいつには、いつも助けてもらった

「ありがとな、進太!」

僕が照れながら言うと

「だから~ビッグになれって
言ってんの!」

思い切り頭を叩かれた

夕焼けが目にしみた

屋上から飛び降りようとしたのも

今、夕焼けに心癒されているのも

まぎれもなく僕自身だ

人はなぜか自分の心に振り回される
どうしようもなく振り回される

ばあちゃんの言っていた
僕の過去に生きた
たくさんの人達の想いが
DNAのなかで生き残り

次々に現れているのかもしれない
僕と同じように死のうと思った人も
いたのかも・・
ふと、そんな気がした


























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