春の花咲く月夜には
「・・・いや、でも、僕は本当にラッキーだったな」

「え?」

ラッキー、と思っていたら、平沢さんの口からも同じ言葉が飛び出した。

驚いて、目をぱちりと瞬かせると、平沢さんは私ににこりと微笑みかけた。

「実は僕、来年から海外への転勤が決まっているんです。できればその前に恋人を・・・、いや、できれば婚約をして一緒に連れて行きたいと考えていて。

自分勝手な考えだとは思うんですが、いい歳だし、この機会に本格的に婚活しようと考えて、勇気を出してこういったアプリに初めて登録してみたんです。そうしたら、まさか、こはるさんのような素敵な方と出会えるなんて」

「・・・」


(・・・これは・・・)


もしかして、今、私は口説かれているのだろうか。

けれど、海外、婚約、といった突然のワードに驚いて、ときめきよりも戸惑ってしまう気持ちが大きい。

「あっ、すみません・・・。いきなり海外だとか婚約だとか言われても困りますよね。こはるさんとはまだ出会ったばかりだっていうのに」

「い、いえ」

「・・・ですが、僕はこはるさんを見た時から『この人だ』ってピンときて。できれば前向きに・・・、僕との交際を考えてはもらえませんか」

「えっ・・・」

驚いた。

初対面で、こんな話の流れになるなんて。

戸惑うけれど、嬉しい気持ちもなくはない。

平沢さんのことは素敵だなって思ったし・・・。

けれど、婚約し、来年一緒に海外に行くという前提で、彼と付き合えるかはわからない。

「あの・・・、ごめんなさい。急な話で、ちょっと、今すぐお返事は」

「ああ・・・もちろんです。今日出会ったばかりですもんね。こはるさんも僕に運命を感じてくれていて、すぐに恋人に・・・なんて甘い考えはありません。だからこれから、僕のことをもっと知っていただけたらと」

そう言うと、平沢さんは、テーブルに乗せていた私の左手に手を伸ばす。
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