春の花咲く月夜には
「・・・そうですか。じゃあ、こはるさんはIT企業で事務として働いてらっしゃるんですね」

「はい」

店に入り、案内された窓際の席。

私が窓を背にした席に座って、平沢さんはその向かい。

お互い注文したブレンドコーヒーを飲みながら、平沢さんのリードで会話はテンポよく進んでいた。

「事務か・・・、気を遣うお仕事ですよね。色々な部署との連携が必要だろうし、細かな確認作業が多いお仕事ですもんね。締め切りも厳しいだろうし・・・。大変でしょう」

「い、いえ。ルーティンワークも多いので、他部署に比べればやりやすい仕事じゃないかと思っています」

「そんなことはありませんよ。僕は事務作業が本当に苦手なので、そんな風に言える、こはるさんをとても尊敬しますよ。もし事務の方がいなかったら・・・と思うと、自分の仕事に集中なんてできないですしね。本当に、大変な仕事だなって思ってるんです」

「・・・そんな・・・、ありがとうございます・・・」


(他の会社の人に、こんな風に言ってもらったのは初めてだ・・・)


同じ会社の人からは、「いつも細かい作業ありがとう」とか「おかげさまで楽になってるよ!」と、声をかけてもらえることはあるけれど。

事務、というと、大した資格がなくてもできるだろう、楽だろう、という認識をされてしまうことも多々あって、何度か悔しい思いを経験してきた。

でも、こんな風に考えてくれる人もいるんだな。

多少はお世辞が入っているかもしれないけれど、それでも、平沢さんに言われたことは、私は素直に嬉しく思った。


(平沢さん、優しいししっかりしてるし・・・、すごく大人っていう感じだな)


ここまでの、平沢さんと交わした会話や彼の振る舞いを思い出す。

こちらを気遣う会話はもちろん、ちょっとした振る舞いから大人の余裕が感じられる。

この先お付き合いに至るかどうかはわからないけど、初めてのマッチングアプリで平沢さんのような人と出会えたことは、とてもラッキーなのかもしれない。
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