春の花咲く月夜には
そして、上からぎゅっと握られて、私はビクッと身体を震わせた。

「よかったら、この後、僕の家に来ませんか」

「えっ」


(い、いきなり・・・)


ここにきて、私の警戒心が急激にぐんと顔を出す。

突然握られてしまった手。

そして、家に来ないかと誘われた。

この流れは・・・ちょっと危険を感じる。

「・・・、ご、ごめんなさい。家は、ちょっと」

「ああ・・・、警戒しないでいいですよ。邪な気持ちで言っている訳ではありません。ただ、僕のことを知っていただくには、自宅に招くのが一番じゃないかと考えたんです」

「・・・・・・」

「僕の家は、マンションの高層階にあるんですが、景色がとてもいいんです。生活ぶりもわかっていただけるんじゃないかと思いますし・・・こはるさんにも、あの景色をお見せしたいな」

平沢さんが微笑んだ。

安心感を与えるような、優しそうな微笑み方ではあったけど、私はその表情を「優しい」とは受け取れず、作り笑いのように映った。


(どうしよう・・・、さっきまで、いい人だって思っていたけど・・・)


だからこそ、真剣に話を聞いていた。警戒心もまるでなかった。

けれど突然、強引な面を見せられて、私の胸は、戸惑いと嫌悪でいっぱいだった。


(・・・初対面でやっぱり不安だし・・・、ここはきちんと断らないと)


「・・・あの、申し訳ありませんが、急に家には行けないし、手も・・・離してもらえませんか」

握られたままの私の左手。

スッと引き抜けたらよかったけれど、少し震えているし、平沢さんの右手に上から固定されていて、動かすことができないでいた。

勇気を出して伝えた私に、平沢さんは動じることなくにこりと微笑む。

「・・・こはるさん」

平沢さんは、自分の右手を滑らせて、私の左手・・・手の甲から腕にかけてをスッとなぞった。

途端、私の全身に、ぞぞぞぞぞっ!と鳥肌が立つ。

「早く結婚したいんでしょう?僕も早くしたいんですよ。だけどやっぱり、最初にある程度お互いのことを知っておいた方がいいんじゃないかと思うんですよね」

「・・・や、あの」

「こはるさん、28歳でしたっけ?・・・僕を逃していいのかな。僕に決めれば、今年中には婚約できて、来年には結婚できる流れになるのに」

「・・・っ」

「だから・・・ね?」
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