春の花咲く月夜には
本人に、「かっこいい」なんて言ってしまって恥ずかしかった。

賀上くんは、驚いたように目を見開いた後、脱力したような雰囲気で、ふっと笑って私を見つめた。

その視線に、胸がドキッと大きく跳ね上がる。

「・・・そっか。心春さんが、そんなことで悩んでるなんて思わなかった」

「・・・っ、な、悩むよ・・・!」

「そんなこと」という言葉に私はちょっとムッとした。

紗也華と話して、最近はおしゃれもメイクも楽しくなって、以前のような自信のなさは少なくなった気がするけれど。

それでもまだ、自信があるってわけではないし、あの時は・・・本当にとても悩んでいたから。

それなのに、「そんなこと」って笑うだなんて・・・。

悔しいような悲しいような・・・ムッとしたままでいる私とバチリと目が合うと、賀上くんは、今度はとても、甘く笑った。


ーーー私は今、怒っているのに。


彼の笑顔に、ドキリと胸の奥が鳴る。

賀上くんは、脱力していた身体を起こすと、私に少し、近づいた。

至近距離。

ドキドキと、胸の音は鳴り続けていてうるさいけれど、私は・・・彼から視線を逸らせない。

「心春さんがそう言ってくれるのは嬉しいけど・・・、オレは・・・、かっこつけてるだけで、自信があるわけじゃないですよ。それに、『Tロケ』のファンの子たちは確かに騒いでくれますけど・・・、実際、言われるほどはモテないし」

「・・・」


(・・・怪しい・・・)


彼の言葉に、思わず疑いの眼差しを向けてしまった。

賀上くんは、苦笑する。

「・・・そうだな。それに、不釣り合いで自信がないっていうんなら、オレの方こそそうだというか・・・。オレはそもそも年が下だし、転職したばっかだし、バンドとかずっとやってるし・・・、傍から見たら、不安定だって評価されると思うから。

心春さんは真面目で・・・、婚活もしてたみたいだし、安定した将来とかを考えるなら、年上で、もっと落ち着いた大人の男がいいんだろうなっていうのは・・・、今もまあ、考えないわけではないし」

「そんなこと・・・」

と口にして、私も、賀上くんと同じことを言っているってハッとした。

自分はとても気になるけれど、相手にとっては「そんなこと」って、軽く受け入れられることだった。
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